- 2021-3-19
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- DNA鎖, Julia Ortony, MIT, Nature Nanotechnology, アラミド構造, ナノファイバー, ナノリボン, 学術
MITの研究チームが、水溶液中で自己組織化し、空気中でも構造を維持したまま、スチールよりも強いナノファイバーを形成できる分子系を考案した。親水性要素と疎水性要素の相互作用を利用して自発的にナノリボン状に整列させるとともに、アラミド構造を導入して空気中でも安定した形状を維持できるよう設計されている。創成されたナノリボンから長い繊維に紡糸できることも実証しており、広汎な用途に応用できると期待している。研究成果が、2021年1月21日の『Nature Nanotechnology』誌に公開されている。
低分子の自己組織化は、自然界で普遍的に見られる現象で、全ての生体器官における組織構造を形成するプロセスとして機能している。例えば2つのDNA鎖が、外部からの刺激や誘導なしに二重螺旋を形成する場合や、多数の低分子が結合して細胞膜や細胞構造を構成する場合に観察される現象だ。低分子同士が互いの相互作用によって自発的に整列し、全ての分子が1つずつ適正な位置に集合するという、この自然界の法則に従って、過去20年間、主としてドラッグデリバリーや再生医学などの生体医学用途に向けて、自ら組織化する低分子を設計して機能性ナノ構造を創成する研究が活発に進められてきた。
だが、「このような低分子の水溶液中における自己組織化に基づく材料は、化学的に不安定で分解しやすい傾向があり、特に水を取り除くと構造全体が分解してしまう」と、MITの材料科学工学科のJulia Ortony助教授はその課題を説明する。そこでOrtony助教授の研究チームは、水の外においても自己組織化構造を安定的に維持できる低分子の設計にチャレンジした。まず、細胞膜にヒントを得て、外側部分は親水性とする一方、内側部分は疎水性で水を避けようとする分子構成を用い、疎水性部分と水の相互作用を極少化するように分子自身が整列する自己組織化現象を利用する。その上で、親水性部分と疎水性部分の中間に、強い結合作用をもたらすアラミド構造を導入した。このアイデアに沿った多数の分子を試作した結果、空気中でも形状を安定的に維持でき、最大20μmの長さを有するナノリボンを設計する手法を見出したのである。このナノリボンのヤング率は1.7GPa、引張強度は1.9GPaであり、スチールよりも強いことが判った。
研究チームは、このナノリボンを束ねて安定したマクロ材料を作成することを検討し、長い糸に紡ぐことができることも実証した。この糸は自身の重量の200倍の重量を保持できるほど堅固だ。また、非常に大きな比表面積を有することも示され、チームは「比表面積が大きいことを利用して、少量の材料で多くの化学反応をおこすことができ、様々な機能性デバイスの小型化技術への道を拓く」と期待する。既に、汚染水から鉛やヒ素のような重金属を吸着する分子を、表面にコーティングしたナノリボンを開発している。ナノリボンを束ねて、電子デバイスやバッテリーを開発する検討も行っている。
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