展示中の小型陽子加速器「ELISA」で考古学的サンプルの非破壊分析を開始 CERN

Image: CERN

欧州原子核研究機構(CERN)は2024年11月22日、CERN Science Gatewayに展示中の小型陽子加速器「Experimental Linac for Surface Analysis(ELISA)」を使った、考古学的サンプルの非破壊分析を開始したと発表した。この種の陽子加速器が展示中に実際の研究に使用されるのは初めてのことだ。

ELISAの使命は、美術品、地質学的遺産、文化遺産などに損傷を与えずその組成を分析することだ。ELISAは、長さがわずか1mの加速空洞で陽子ビームを2MeVまで加速する。陽子ビームをサンプル上の小さな点に向けて集束させることで、古代の洞窟美術に使われた顔料などのサンプル分析が可能だ。この相互作用がサンプルの原子を励起し、その結果、特定の元素に対して固有の波長を持つ光子が放出される。放出された光子を分析することで、サンプル組成の詳細なプロファイルを構築できる。

ELISAを使った最初の実験では、世界中の古代洞窟美術で使用されている顔料を科学者が模倣して作成したサンプルを使用した。この実験では、陽子ビームが各サンプルに与えるダメージと、サンプルへのダメージを避けるための、理想的な照射時間と電流の条件を評価している。

実際に稼働する加速器を展示に含めるというアイデアは、Science Gatewayプロジェクトが始まった時に、CERNの展示チームがCERN内の科学者たちと行ったブレインストーミングの中で生まれた。加速器自体は、CERNの応用物理学者Serge Mathot氏が考案したものだ。Mathot氏は、陽子ビームがLHCまで到達する過程で最初に通過する加速空洞「Linac 4 Radio Frequency Quadrupole(RFQ)」を開発したチームの一員で、ELISAはLinac 4 RFQの小型版となっている。

Mathot氏は、当初、医療用の小型リニア加速器の研究に携わっていたが、この技術が文化遺産の研究にも使える可能性があることに気づいた。「陽子ビーム技術は、感度が高くバックグラウンド放射線が非常に低いため、他の分析技術と比べて非常に効果的だ。また、真空中ではなく大気中で分析ができるため、より柔軟に分析でき、壊れやすい対象物にも適している」と述べている。

通常、サンプルは施設に持ち込まなければならないので、考古学のフィールドワークで使用できる分析技術は限られている。ELISAのようなコンパクトな加速器は、加速器施設がない地域やフィールドワークの現場などへ持ち運べて使えるポータブル加速器の開発の第一歩となることが期待されている。

展示フロアでELISAを稼働させて実際に実験をすることは、ELISAで計画されている活用法の1つにすぎない。展示ガイドによる来場者向けのデモンストレーションも準備中であり、近いうちに、CERN Science Gatewayの開館時間中にELISAが稼働する様子を誰でも見られるようになる予定だという。

関連情報

Science Gateway’s mini accelerator is now taking data | CERN

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