- 2025-1-22
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- Canadian Light Source(CLS), EV, Journal of The Electrochemical Society, The Electrochemical Society(ECS), サスカチュワン大学, ダルハウジー大学, リチウムイオンバッテリー, 単結晶電極, 単結晶電極バッテリー, 学術, 超高輝度放射光
カナダのダルハウジー大学を筆頭とする研究者チームは2024年12月9日、単結晶電極と呼ばれる新しいタイプのリチウムイオンバッテリーの特性を発表した。開発したバッテリーは、6年間にわたり、連続して2万回以上の充放電を繰り返した後も80%の容量を保持していた。この容量は、EVの走行距離で800万kmに相当するという。
アメリカでは、リチウムイオンバッテリーの性能に関する法律として、8年間使用した後で新品時の80%の容量を維持できなければならないと定められている。こうした状況から、EVに搭載するリチウムイオンバッテリーの寿命を延ばそうとする動きが活発化している。
同大学の研究者らは、カナダのサスカチュワン大学内のCanadian Light Source(CLS:カナダ国立シンクロトロン光源施設)の超高輝度放射光を使って、単結晶電極バッテリーと通常のリチウムイオンバッテリーの内部を観察した。
充放電を2400サイクル繰り返し、容量が80%に達した通常のリチウムイオンバッテリーの内部は、充放電の繰り返しによって電極材料に微細なひび割れが大量に発生していた。これは、リチウムがバッテリー材料の原子を無理やり引き離し、材料の膨張と収縮を引き起こすためだ。最終的には、電極が粉々になるほど多くの亀裂が生じた。
一方、単結晶電極バッテリーでは、充放電の繰り返しによる機械的ストレスの痕跡はほとんど見られなかった。画像では、新品のバッテリーとほとんど見分けがつかなかったという。
この新型バッテリーでは、劣化がほとんど進行していないことが確認された。その理由について研究者らは、バッテリー電極を構成する粒子の形状と挙動が異なるためだと分析している。通常のバッテリーでは、バッテリー電極は髪の毛の幅の50分の1の微粒子で構成される。その粒子を拡大すると、さらに小さな結晶が、雪玉の中の雪の結晶のように束になって構成されている。
単結晶は、その名の通り1つの大きな結晶で、氷のキューブに近く、角氷の方が雪玉より機械的ストレスやひずみに対してはるかに強い。
このバッテリーは、リチウムイオンバッテリーで発生しがちな微細なひび割れに強い。この特性は以前から知られていたものの、これほど長期間充放電を繰り返した電池について詳細に研究された例はほとんどない。また、CLSの高輝度放射光を使うことで、バッテリーセルを分解することなく、ミクロのレベルで観察できるようになった。
この新型バッテリーはすでに商業生産段階に入っており、研究者らは今後2、3年のうちに使用量が大幅に増加すると予想している。
この成果は、The Electrochemical Society(ECS)のジャーナル、『Journal of The Electrochemical Society』で2024年11月15日に掲載された。