- 2025-1-31
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欧州原子核研究機構CERNの大型ハドロン衝突型加速器「LHC」において、陽子-陽子の衝突頻度を高める高輝度化計画が進められており、新しい2系列の強力な磁石が性能確認試験機に設置された。衝突点直前でビームを導き強力に収束する最終ビーム収束磁石システムを構成するものであり、最大11.3テスラの磁場を発生する、最新世代の超伝導ニオブスズ(NbSn)磁石を採用している。
LHCは高エネルギー物理実験を目的として、CERNが建設した世界最大の衝突型円形加速器であり、スイスのジュネーブ郊外のフランス国境をまたいだ地下トンネルに設置されている。全周約27kmで2008年に稼動を開始した。
現在ではLHC計画をさらに発展させる高輝度LHC(HL-LHC)計画が進められており、陽子-陽子の衝突頻度を上げてデータ収集量を一桁増やすことにより得られるビッグデータを利用し、未知の新粒子探索感度を大幅に向上させ、新たな物理現象の発見を目指している。高エネルギー加速器研究機構(KEK)を中心とした日本グループも、これまでにCERNとともに築いてきた実績をもとに、HL-LHC計画の一翼を担っている。
このほど、2026年のHL-LHCの全体実験開始を目指して、新しい2系列の強力な磁石が性能確認試験機に設置された。衝突点直前でビームを導き強力に収束する最終ビーム収束磁石(Inner Triplet:インナートリプレット)システムを構成するものである。
そのうち第1系列は、CERNで製作された超伝導四重極磁石および偏向磁石である。四重極磁石は、加速器の輝度を高めるために粒子を強力に収束させるインナートリプレットであり、現在のLHCの磁石に用いられているニオブチタン合金(Nb-Ti)の代わりに、最新世代の超伝導NbSn磁石を用いている。現在の8.6テスラよりも強力な11.3テスラの磁場を発生し、ビームを強力に絞り込むことができる。四重極磁石の冷却システムには、スペインの研究機関も協力して製作された偏向磁石が組み込まれ、最大4テスラの磁場を発生することにより粒子ビームの軌跡を偏向できる。
第2系列は、分離磁石および再結合磁石として用いられる双極子磁石であり、ビーム同士を導いて衝突および分離させる機能を持つ。日本のKEKで作られ試験されたものであり、LHCの双極子磁石と同様にNb-Tiから作られ、5.6テスラの磁場を発生させることができる。
「HL-LHCにおける強力な磁石の採用は、加速器の将来に向けて歴史的なマイルストーンであり、HL-LHC計画の目標達成に重要な役割を持つ」とCERNの技術チームは説明する。
高輝度LHCシステムを模擬した性能確認試験機に設置し、電力供給系や冷却系、保護系、アライメントシステムとともに組み込まれたときに全体としてどう作動するかをチェックするとともに、設置手順を確認する。2025年前半に、さらに2個の磁石を追加して性能確認試験機として完全に組み立て、品質検査および1.9Kまでの冷却を行った後、2026年にはシステム全体の試験を行う予定である。
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The test stand for the High-Luminosity LHC welcomes its first magnets | CERN