- 2025-1-16
- 機械系, 研究・技術紹介, 電気・電子系
- jig, カシメ治具, 切断治具, 加工, 固定治具, 塗装治具, 挿入/引き抜き治具, 検査, 検査治具, 治具, 溶着治具, 組み立て, 製造現場
ものづくりの世界では、ただ良いものをつくるだけでなく、いかに効率良くつくるかが求められます。そのために必要とされるのが「治具(じぐ)」です。治具を使うことで、誰でも簡単に作業ができるようになります。
製造現場では当たり前のように使われている治具ですが、日常生活では治具という言葉さえ聞き慣れない人が多いのではないでしょうか。この記事では、治具の概要やメリット、使い方、種類などを解説します。どうぞご覧ください。
治具とは?
治具とは、主に製造現場において加工や組み立て、検査などの作業をサポートするツールのことです。工作物や工具の固定、位置決め、制御、案内などをするために使われます。英語で同じ意味を持つ「jig」が名前の由来で、いわゆる当て字です。
治具と工具は混同されることがありますが、役割が異なります。工具は工作物を切断したり、穴を開けたりと、実際の加工をするために使われるものです。一方、治具はそれ自体で工作物を加工することはなく、あくまで加工を補助するために使われるツールを指します。
また、工具は特殊なものを除き、基本的にはあらゆる工作物に使える汎用性があります。それに対して治具は、製品に合わせて特別につくられるものです。そのため、工作物を固定するクランプなどは実際の加工はしませんが、特別なものでない限り工具として分類されます。
治具を使用するメリットとは?
作業の手間や時間を削減できる
金属や木材などの加工で決められた位置に穴を開ける際、治具がない場合は上下端や左右端からの寸法を測り、穴開け位置を罫書(けが)く必要があります。
工作物が少量ならば、一つ一つ罫書き作業をしても良いでしょう。しかし、工作物が大量にある場合、毎回スケールを当てて寸法を測り、印を付けたり、線を引いたりする作業は、膨大な手間と時間が必要になります。
治具を使用すれば、その膨大な罫書き作業の手間や時間を削減できます。例えば、工作物の大きさに合わせたプレートを用意し、あらかじめ決められた位置に穴を開けておけば、そのプレートを治具としてセットすることで寸法を測る作業が不要になります。
作業ミスや品質のばらつきを防ぐ
金属や木材などの穴開け加工では罫書き作業が必要になりますが、人の作業にはミスがつきものです。開ける穴の数が少なかったり、穴を等間隔に開けたりする場合は、作業ミスは起こりにくいかもしれません。しかし、穴の数が多かったり、規則性がない位置に穴を開けたりする場合は、寸法の測り間違いが発生しがちです。
また、寸法の測り間違いがなくても、作業者の熟練度やコンディションによって罫書きの精度が悪い場合は、品質にばらつきが生じてしまいます。
治具を使うことで、それらの作業ミスや品質のばらつきを防止できます。あらかじめ穴を開けたプレート治具を工作物にセットすれば、決められた位置に精度高く穴を開けられます。
難しい作業を簡単にする
穴開け加工に必要な罫書き作業は難易度が高くないため、時間をかければ誰でもできるものです。あらかじめ穴を開けたプレート治具を使うと、罫書き作業の手間や時間を削減し、作業ミスや品質のばらつきを防ぐという大きなメリットがありますが、仮にプレート治具がなくても穴開け加工自体に支障はありません。
しかし、真っすぐに穴を開けるのではなく、斜めの穴開け加工になると話は変わってきます。斜めの穴開け加工は難易度が上がるため、時間をかければ誰でもできるというものではありません。特に初心者が正確に仕上げるのは難しいでしょう。
そのような難しい斜めの穴開け加工も、ドリルの刃を決められた角度で斜めに誘導するガイド治具を使用すれば、誰でも簡単にできるようになります。
治具の使い方・お勧めの利用シーン
治具を使う際は大前提として、適切な治具を使う必要があります。違う製品の治具や、似たような治具を誤って使ってしまうと、当然のことながら間違った加工をすることになります。治具の間違いには注意が必要です。
適切な治具であっても、破損していたり、ゴミが付いていたりすると加工精度が悪くなります。安全性の問題もあるため、使用前には全体を点検し、定期的にメンテナンスするようにしましょう。
また、治具をセッティングする際に、上下左右を逆にしたり、ずらしたりしてしまうと正しい加工はできません。間違ったセッティングをしないためには、分かりやすい表示やポカヨケ(誤り防止)などの工夫をすると良いでしょう。
治具が加工中に動いてしまうと、正しい加工ができないのはもちろん、思わぬケガをしてしまう恐れもあります。治具を使う際はしっかりと固定することが重要です。
治具を正しく使えば、誰でも効率の良い作業ができるようになるため、特に大量生産が必要なシーンで利用が推奨されます。
治具の種類
固定治具
精度の高い加工をするためには、正しい位置に工作物を固定しなければなりません。また、組み立て作業などではパーツを固定することで、効率よく作業を進められます。その際に必要とされるのが固定治具です。しっかり固定することで、作業の安全性も高まります。
代表的な固定治具として「バイス(万力)」や「クランプ」が挙げられます。バイスもクランプも工作物を強い力で挟み込んで固定しますが、バイスは作業台などの安定した場所に設置して使用します。
一方、クランプは作業台などに設置されていないため、クランプで固定した工作物は自由に動かせます。複数の工作物をまとめる、作業台と工作物を一緒に固定するといったケースで使用します。
切断治具
工作物を決まった大きさや角度、形状に切断する際に使用するのが切断治具です。例えば、長い棒状の工作物を10cmずつ切断する場合、基本は10cmずつ罫書きをしなければなりません。しかし、切断治具を使用すればもっと効率的に切断できます。
最も簡単な切断治具は、最初に寸法を測って切断した10cmの加工品でしょう。この10cmの加工品を工作物に添えれば、罫書きをすることなく10cmで切断可能です。10cmの深さを持つ筒状の容器なども切断治具として使えるでしょう。工作物を奥まで差し込み、はみ出した部分を切断することで効率よく10cmの加工品がつくれます。
また、決まった角度や形状に刃をガイドするような切断治具は、効率や品質だけでなく安全性も高めます。
挿入/引き抜き治具
挿入/引き抜き治具は、素手や一般工具では挿入や引き抜きが難しいものに使われます。例えば、機械の軸を滑らかに回転させるベアリングは台座にぴったりはまっているため、交換する際は素手や一般工具では引き抜けません。そのため、「プーラー」と呼ばれる引き抜き治具を使います。
プーラーにはさまざまな種類がありますが、基本はベアリングに挿入して固定する軸と、台座を押さえる爪で構成されます。プーラーを使用すれば、ベアリングを真っすぐ引き抜けます。ベアリングは挿入する際も、真っすぐ圧入する必要があるため、挿入するための治具もあります。
また、ピンがたくさんあるICなども引き抜きが難しいものです。引き抜き治具を使用すれば簡単に引き抜けるだけでなく、誤った方向に力が加わらないため、破損も防ぐことができます。
溶着治具
溶着治具は、工作物を接合する際に使われる治具です。例えば、コンベアなどに使用する丸ベルトは熱で溶着する必要がありますが、フリーハンドで溶着すると接合部分が曲がったり、ずれたりしてしまいます。溶着治具を使えば正しい位置にガイドしてもらえるため、接合部分をきれいに仕上げられます。
また、プラスチック製品の組み立てには、振動の摩擦熱で工作物を接合する「振動溶着」と呼ばれる工法があります。この振動溶着では、工作物の位置を正確に合わせるための治具が必要です。他には溶接作業において、多数の工作物を正確な位置に固定し、精度高く効率的に溶接するための治具などがあります。
塗装治具
塗装治具は、塗装作業を効率化するための治具です。例えば、工作物をハンガーにつるすことで塗装しやすくなりますし、多数のフックがあれば、大量の工作物をまとめて塗装することも可能です。
塗装したくない箇所をマスキングするための治具もあります。マスキングテープによるマスキングは、貼ったり剥がしたりする作業が必要なため手間と時間がかかります。マスキング治具を使えば簡単にマスキングできるだけでなく、繰り返し使えるため環境への負荷を減らせます。
また、文字や数字などを切り抜いたステンシルシートも、塗装治具の一種です。ステンシルシートを使って塗料を塗ったり吹きかけたりすれば、きれいな文字や数字を誰でも簡単に効率よく描けます。
カシメ治具
カシメ治具は、リベットを「加締(かし)める」ために使われます。日常生活でよく見かけるリベットは、ジーンズのポケット部分に使われている鋲(びょう)でしょう。リベットは金属に大きな圧力を加えて塑性変形させているため、破壊しない限りは外れません。その大きな圧力を加えるためのツールがカシメ治具です。
カシメには「ブラインドリベット」「プレスカシメ」「スピンカシメ」と、主に3種類の方法があります。ブラインドリベットは、球のついた軸を引っ張ることでリベットを変形させます。プレスカシメは、リベットを押しつぶして変形させるカシメです。スピンカシメは、専用工具を回転させながらリベットに押し付けて変形させます。いずれも強い力が加わるため、カシメ治具には高い剛性と耐摩耗性が求められます。
検査治具
検査治具は、加工品の寸法や形状などを検査するために使用される治具です。一般的に寸法を測るには、スケールやノギス、マイクロメーターなどの測定器具が使われます。しかし、測定器具による寸法測定は時間がかかるだけでなく、測定値の見間違いなどのミスが起こる可能性もあります。検査治具を使用すれば、寸法を測定せずに検査ができるようになります。
例えば、直径30mmの円柱形の加工品を検査したい場合、寸法公差が±0.5mmであれば30.5mmと29.5mmの穴を開けた検査治具を用意すれば良いでしょう。加工品が30.5mmの穴に通って、29.5mmに通らなければ合格です。このように検査治具を使うことで、誰でも効率よく検査ができます。
まとめ
治具の概要やメリット、使い方、種類などを解説しました。
治具は加工や組み立て、検査などの作業をサポートするツールで、製造現場では欠かせないものです。作業の手間や時間を削減できるだけでなく、作業ミスや品質のばらつきも防ぎます。
また、治具を使えば難しい作業も簡単にできるようになるため、熟練者でなくても精度の高い作業を効率的に進められます。作業がしやすくなることにより、安全性が高まるのも治具のメリットです。
関連記事
ライタープロフィール
fabcross for エンジニア 編集部
現役エンジニアやエンジニアを目指す学生の皆さんに向けて、日々の業務やキャリア形成に役立つ情報をお届けします。