北海道大学は2024年8月20日、同大学と東北大学、カリフォルニア大学の共同研究チームが、次世代蓄電池「水系亜鉛イオン電池」の高エネルギー化、高出力化に成功したと発表した。
現在、蓄電池として広く用いられているリチウムイオン電池はレアメタルを使用するため、資源の枯渇によるサプライチェーンへのリスクが懸念されている。また、可燃性の電解液を用いるため、安全面での対策が求められる。
リチウムイオン電池に代わる次世代蓄電池として、さまざまな材料を用いたものが検討されている。中でも、亜鉛金属を用いた蓄電池は、安全性が高い水系電解液を使用可能で、資源性の観点からも蓄電池化が期待されている。亜鉛電池には、亜鉛イオン電池、ニッケル亜鉛電池、亜鉛空気電池といった種類がある。
今回の研究では、弱酸性の水系電解液を用いる亜鉛イオン電池を採用した。マンガン酸化物の一種である、スピネル型亜鉛マンガン複酸化物(ZnMn2O4)の極小ナノ粒子を「アルコール還元法」という溶液プロセスで合成している。合成した一粒子のサイズは平均5nmとなり、ZnMn2O4極小ナノ粒子が炭素材料のグラフェンに担持された複合材料を得ることに成功した。
同材料の亜鉛イオン電池正極の特性を評価し、2電子反応に相当する充放電が進行することを確認した。ZnMn2O4重量あたり600Wh/kgに相当するもので、リチウムイオン電池に使用される正極活物質と同レベル以上のエネルギー密度に達したという。
マンガン酸化物を用いた従来の亜鉛イオン電池では1電子反応しか利用できず、リチウムイオン電池並みのエネルギー密度に達しないことが課題となっていたが、同材料は高いエネルギー密度を高出力で発揮できることが判明した。
今回の研究では過剰量のグラフェンを添加しており、電極重量あたりのエネルギー密度が約370Wh/kgとなっている。今後これを改善できれば、既存のリチウムイオン電池と同レベル以上のエネルギー密度を有する安全性の高い蓄電池が構築できることとなる。
また、電極構造を改善することで、1000回以上の長期サイクルも期待できるという。資源性に優れることからコストの低減も見込まれるため、次世代大型蓄電池の実用化につながることが期待される。
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新着情報: リチウムイオン電池に置き換わる水系電池~次世代亜鉛イオン電池をナノテクノロジーで高エネルギー化~(理学研究院 准教授 小林弘明)