- 2024-10-30
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- 5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ), CAD利用技術者試験, CAD(Computer Aided Design:コンピューター支援設計), コスト, コミュニケーション, レイアウト, 機械工学, 生産ライン, 生産技術, 生産技術者マネジメント資格, 製造業, 設備, 設計図面, 設計開発
かつて世界を席巻していた日本の製造業は、生産技術が支えていたといっても過言ではありません。壊れにくく高性能な製品の開発力に加え、効率のよい生産体制の構築を担う生産技術なくして、日本の製造業の急成長は成し遂げられなかったはずです。
設計開発などと比べて生産技術の仕事内容は分かりにくく、どのような特徴があるのかを理解している人は少ないかもしれません。この記事では、これからの日本の製造業の復活に欠かせない、生産技術について詳しく解説します。
生産技術の職種・仕事内容
生産技術は、製造業において効率的な生産ラインの構築と稼働を担い、コストを抑えながら安定した品質の製品を供給する重要な職種です。仕事の内容は、製品を生産するために必要な技術と工程の開発、生産ラインの設計、管理、設備の導入など幅広く、技術力に加え、柔軟な対応力やコミュニケーション能力が求められます。人手不足の深刻化により、生産ラインの自動化が喫緊の課題となっていることからも、生産技術職の需要は今後も高まることが予想されます。
生産技術の具体的な仕事内容
生産ラインの設計・管理
生産ラインは、ライン上に人員や設備を配置し、部品を流しながら作業を進めることからそう呼ばれるようになりました。製造業においては、どれだけ効率的な生産ラインを導入できるかが生産性向上のカギを握ります。生産技術職は効率的な生産を意識しながら、最適な生産ラインのレイアウトを検討します。
生産ラインのレイアウトを検討する際に重要になるのが、人員と設備の適切な場所への配置です。作業のスムーズな流れを意識することで、工程間の滞留や接触事故を防ぎます。さらに、作業者の負担を低減させる環境や安全面の配慮、メンテナンスの際のスペース確保などを検討したレイアウトを、設計図面に落とし込みます。
生産ラインは、実際に導入された後も改善を重ねることで、生産性の向上を追求します。故障や不具合などで生産ラインが止まり、作業者や保守要員だけで復旧できない場合には、生産技術職が対応します。そのような事態を避けるため、日々の管理と調整が重要になります。
設備の導入
設備の老朽化や、さらなる高性能機種への入れ替えなどを理由にした、新たな設備の導入にも携わります。設備は外注する場合と、社内エンジニアに設計を依頼して内製する場合があり、どちらの場合でも生産技術職が関係者と情報を共有し、設備導入までの手順を計画的に進めていきます。設備の導入には大きなコストと労力がかかるため、導入によるメリットを明確に示し、各部署から理解を得る必要があります。
設備を外注する場合、生産技術職は現在の設備で何が問題なのかを把握し、設備メーカーに要求仕様を提示します。現状の課題を解決できる要求仕様でなければ、新たな設備の導入メリットを最大化できなくなる可能性があるので注意が必要です。設備の導入は製造現場だけでなく、企業の利益にまで影響が及ぶため、社外および社内の関係部署との綿密なすり合わせが求められます。
生産体制の効率化
生産技術職の目的は生産性向上にあるため、生産ラインや設備を導入してからも、継続的に生産体制の効率化に努めます。作業者からのヒアリングに加え、日々の生産データを収集、記録、分析し、課題があれば解決案を探ります。
課題例としては、不良品が多発する、設備トラブルが多い、治具が扱いにくい、段取りに時間がかかる、などが挙げられます。これらの課題解決に向けた仮説を立て、検証することで解決策を導きます。また、業務の流れや手順などにムリやムダがあると、非効率な生産体制につながります。5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底や、動作、工程、段取りを見直すことで改善できるポイントを探り、1つずつ対応することで効率化していきます。
生産技術と製造技術の違い
生産技術と混同されがちな職種が製造技術です。どちらも生産性の向上を追求するという目的を持ち、生産ラインとプロセスの設計から導入を担うのが生産技術で、導入後のラインの安定した稼働を担うのが製造技術の主な役割です。実際には重複する仕事内容があり、企業によっては生産技術部で統一しているなど、解釈が異なる場合があります。
どちらも仕事内容に共通点が多いため、求められるスキルや資格に大きな違いはありません。ただ、生産技術は製品開発の段階から関わり、生産ラインの設計を担当するため、製品開発の経験やCAD(Computer Aided Design:コンピューター支援設計)に関する資格があれば有利になります。一方で、製造技術は各製造工程の最適化に注力するため、製造現場でのオペレーターや管理業務の経験が役に立ちます。
給料と待遇は、生産技術の方が高くなる傾向にあります。これは、生産技術の仕事内容に開発や設計が含まれ、より高度で幅広い知識が求められるためです。また、製造技術は生産技術の一部とみなされ、生産プロセス全体の把握が必要な生産技術の方が、業務の負担や責任が大きくなります。しかし、仕事内容や求められる経験やスキル、責任の大きさは企業により異なり、同じ技術職の間で給料や待遇に大きな差をつける企業は少ないと考えてよいでしょう。
生産技術で求められる技術・スキル
生産技術職で求められる技術やスキルは、製品開発、設計図面の作成と解読、生産設備の設置、管理、保守、コミュニケーション能力などです。絶対に必要な資格はありませんが、業務と関連のある「生産技術者マネジメント資格」や「CAD利用技術者試験」、海外赴任を希望する技術者には語学関連の資格があれば有利になります。資格がなくても、実務経験を積むことで評価が高まれば、希望する部署や勤務地への異動の要望が通りやすくなります。
設計や表計算ソフトに関する資格、知識
製品の開発段階から生産技術職が関わることで、生産性やコストに配慮した設計が可能になります。そのため、図面の作成や解読スキルがある生産技術職が求められています。特に、設計と製造をつなぐ媒体として重要性が高まっている3次元データが扱える技術者は、活躍の場が広がります。
図面はCADで描かれるため、CAD利用技術者試験の資格があれば有利です。設計図作成に関する知識やCADの操作技能を習得していることの証明にもなり、生産技術の経験と組み合わせることで、希望する部署への異動や転職にも役立ちます。また、原価や製造コストの算出、在庫、生産管理などの事務処理もあるため、表計算ソフトなどの基本技術の習得もおすすめです。
課題を発見し解決するスキル
課題を発見するために重要視すべきは、作業者の声に耳を傾けることです。近年ではIoT技術の進歩により、設備を構成する機器にセンサーを取り付け、異常の早期発見ができるようになっています。しかし、取得データには反映されない設備の異常や非効率な工程の発見には、常に設備に向き合っている作業者の感覚が頼りになります。
作業者の声を拾い上げるには、細かなことでも意見交換ができるような関係性を築くことと、常に探求心を持って課題を発見しようとする意識が重要になります。課題を早期発見し解決することで、生産ラインの停止という事態を未然に防ぐことができ、結果的に生産性の向上につながります。
課題の解決には基本に忠実になることが大切で、5Sの徹底や工程の見直し、業務プロセスの可視化、管理ツールの導入などを計画的に進め、トラブルが起きにくく、起きたとしても即座に解決できる生産体制の構築を目指します。
コミュニケーションスキル
生産ラインの課題の発見には、作業者の声を拾い上げることが重要だと前述しましたが、作業者と生産技術職が気軽に相談できる環境作りは意外と困難です。作業者の立場からすれば問題があっても、「相談しても意味がない」とか「相談したら怒られるかも」と感じることもあり、相談できないケースがあります。
生産技術職は、作業者の報告がないからといって「問題がない」と判断してはいけません。また、日々の点検や生産データから問題を発見したとしても、作業者を責めるのではなく、再発防止のために、作業者に気を付けるポイントと報告することの重要性を理解してもらう必要があります。生産技術職は、作業者をはじめ多くの関係者と意見を交わしながら仕事を進めます。信頼関係を築き、業務をスムーズに遂行するためにコミュニケーションスキルは必須です。
生産技術の仕事が向いている人
生産技術職に向いているのは、ものづくりが好きなことはもちろん、多くの人と接しながら仕事を進めることができる人です。生産ラインの立ち上げから運用、管理まで任される立場にあるため、それぞれの持ち場の担当者からヒアリングして課題を見つけ、生産性向上に向けた取り組みを計画します。また、困難な課題でも着実に対処できる根気強さと柔軟な考え方、新たな技術に対するどん欲さも求められます。
生産技術のやりがいとは
生産技術は、生産工程の開発から生産ラインの設計、立ち上げ、稼働、管理まで担当するため、幅広い技術を習得できます。生産技術の経験を積むことで技術者として成長し、社内での評価や転職市場での価値が高まります。経験豊かな生産技術職は他部署でも活躍の場があり、別の職種でキャリアの幅を広げることもできます。新しい分野でのチャレンジや待遇の改善を希望する場合、転職が比較的容易なのが生産技術の魅力でもあります。
生産技術の仕事は、既存の工程や設備を改善することで生産性の向上を図るため、業務改善にやりがいを感じる人に向いています。完全な生産ラインはないという前提に立ち、常に稼働率の向上、作業者の負担軽減と安全性を向上するために何が最善かを考え、試行錯誤を繰り返します。
業務改善の結果、品質や生産性の向上につながったときの達成感はひとしおです。生産現場では、生産ラインの生産性がわずかに上がるだけでも、企業の大きな利益向上につながります。自身の努力が報われるだけでなく、成果が企業の成長として現れるのは大きなやりがいになるはずです。
向いている人の特徴
生産技術の仕事は、社内の他部署の人たちや、設備メーカーやサプライヤーの担当者たちと関わる機会が多いため、コミュニケーションをとることに抵抗がない人に向いています。とはいえ、単に話をすればよいというわけではなく、相手が何を伝えたいのかを理解し、相手に伝えるべきことを確実に伝えるスキルが求められます。相手は同僚や部下、上司、社外の担当者など年齢や立場はさまざまで、自分の主張が受け入れられないことも多々あります。そんな場面でも冷静さを失わず、最善の解決策を模索する根気強さも必要になります。
生産ラインの立ち上げは、納期に間に合わせるために綿密な計画を立てますが、何かしらのトラブルは必ず起こると考えた方がよいでしょう。そうすることで、トラブルが起きた際でも冷静さを保ちながら最適な解決策を導き出し、関係者への迅速かつ的確な指示が可能になります。このような問題解決能力の高さは優秀な生産技術職として評価され、信頼関係が強まることで仕事がより進めやすい環境が整います。
不向きな可能性がある人の特徴
コミュニケーションが苦手で、独断で判断して仕事を進めがちな人には、生産技術の仕事は向いていません。例えば、社内外の関係者との連絡が不十分なまま生産ラインの導入を進めてしまい、工期の終わりごろに間違いが発覚することで、納期が大幅に遅れるなどのケースが考えられます。生産技術の仕事では、1つの確認漏れが重大な損失につながる可能性があるため、あらゆる事項において繰り返しの確認が必要になります。確認の対象は人だけでなく、図面などの資料の確認にも念を入れる几帳面さが求められます。
同じ仕事を繰り返すルーティーンワークがしたい人も、生産技術の仕事に向いていません。生産ラインで製造する製品は毎回同じとは限らず、似たような製品でもわずかに仕様が違えば設備や工程の変更が必要になり、いつどのようなトラブルが起こるかは予測できません。さらに、生産性向上に向けた工程や手順、設備、治具、人員配置の見直しに終わりはなく、日々新たな課題と改善に対応します。こうした環境であることから、チャレンジ精神が感じられず、最新の技術や知識の習得に無関心な人には厳しい仕事だと言えます。
生産技術の給与相場
求人ボックス 給料ナビによると、生産技術の給与相場は、正社員の平均年収が約471万円、派遣社員の平均時給が1,893円となっており、すべての職種の平均年収460万円(国税庁 「令和5年分 民間給与実態統計調査」より)より好待遇が期待できます。初任給は21万円程度が相場で、全体の給与幅が338~921万円と広いことから、企業の規模や役職、仕事内容、勤務地、経験の違いにより、待遇にも差が出るようです。
Doda職種図鑑によると、年間ボーナスの平均は約111万円で、月の平均残業時間は約23時間、年間の平均休日は113日です。
転職のポイント
生産技術への転職を目指すのであれば、自身のスキルを把握し、生産技術への適性を評価してみましょう。スキルアップが必要だと感じれば、機械工学やCAD、生産マネジメントなどの勉強や、生産現場での経験を積むことで技術力を高めることができます。また、相談や教育などの充実したサポートを提供してくれる転職エージェントへの登録もおすすめです。
転職を考えるべきポイント
生産技術への転職を希望する場合、現時点で自分がどれだけ生産技術の仕事に適しているかを客観的に評価してみましょう。第一条件として、生産現場での経験は欠かせません。機械の操作や段取り替え、保守、管理、メンテナンスなど、経験した仕事内容が多いほど適性は高まります。
生産現場を熟知するレベルになると、生産現場の状態の把握と課題の発見、生産方法の構築と改善など高度な業務も可能になるため、即戦力として好待遇での転職が期待できます。また、生産現場の視点を開発や設計部などへフィードバックできる人材として、配属先の選択幅が広がります。
設備に対する豊富な知識がある場合は、製造技術として設備の管理を任され、異常の早期発見や修理などで貢献できます。特定の分野の専門知識を有する技術者は、自分の専門技術を正当に評価してくれる企業と、それを活かせる仕事があるかを調べましょう。生産技術、もしくは製造技術のどちらを希望する場合でも、仕事を円滑に進めるためには周りの協力が不可欠なため、コミュニケーションスキルの向上は常に意識したいところです。
転職先を決めるうえで押さえておきたいポイント
転職を希望する技術者は、まず転職理由をはっきりさせましょう。理由は待遇や勤務地、休日、仕事内容への不満のほか、人間関係の問題や将来性への不安などが考えられます。転職してもこれらの理由が解決されないのであれば意味がないため、転職理由の明確化と転職先の調査はとても大切です。
現在の仕事に不満がある場合でも、焦って転職活動をしてしまうと失敗する可能性が高いため、余裕をもってじっくりと準備を進めましょう。転職先が決まらないまま仕事を辞めると生活が不安定になり、心の余裕がなくなり、正常な判断ができなくなる可能性があります。また、転職先の調査をじっくり進めていると、今の会社で働き続けることのメリットとデメリットを再認識することになります。大企業で働いているのであれば、他部署や別工場への異動などで問題を解決できる可能性もあります。
それでも、転職が最善の解決策だと判断した場合、インターネットや人脈を使い、候補となる企業を徹底的に調査します。しかし、個人の活動ではどうしても限界があります。効率的な転職活動をするために、業界や企業の情報に詳しく、充実したサポートを提供してくれる転職エージェントへ相談することをおすすめします。
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人手不足が深刻化する中、製造業の多くの企業で生産の自動化や省人化を加速しており、優秀な生産技術職の確保が急務となっています。企業の成長と利益の追求に不可欠な人材として、今後も生産技術職の需要は高まることが予想されます。転職を考えている技術者は、転職エージェントへ相談することが成功への近道になります。
メイテックネクストは、エンジニアに特化した転職支援サービスを提供しています。経験豊かな技術者でも自分のスキルの客観的な評価は困難ですが、メイテックネクストは深い技術知識に基づいた分析により、相談者に最も適した仕事が何かを導きます。
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まとめ
生産技術職は、生産ラインのスペシャリストとして頼りにされ、生産性を向上させることで企業の成長に貢献するやりがいのある仕事です。幅広い業務を任され、多くの関係者とコミュニケーションをとる必要性から大きなストレスや負担がかかる仕事でもありますが、困難を乗り越え生産ラインを軌道に乗せたときの達成感は特別なものがあります。
キャリア面では、幅広い技術の習得や経験を積むことで昇進や待遇の改善が期待でき、多くの企業で優秀な生産技術者が不足しているため、さらなる好待遇を求めての転職も比較的容易です。これからの日本の製造業を支える技術者として、生産技術の世界に飛び込んでみてはいかがでしょう。
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fabcross for エンジニア 編集部
現役エンジニアやエンジニアを目指す学生の皆さんに向けて、日々の業務やキャリア形成に役立つ情報をお届けします。