- 2025-1-7
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- ビスマス-テルル-セレン系材料, レーザーラマン散乱分光法, 北陸先端科学技術大学院大学, 格子振動, 熱伝導率, 熱電材料, 研究, 非調和振動
北陸先端科学技術大学院大学は2025年1月6日、レーザーラマン散乱分光法を応用して、実用熱電材料の熱伝導率が低い理由を解明したことを発表した。
産業応用されている熱電素子の心臓部には、ビスマス-テルル-セレン系の材料が使われている。同材料は優れた熱電性能を持ち、熱を伝えにくいという特徴がある。格子振動の非調和項が熱の流れを阻害していることが、同材料の熱伝導率が低い理由として考えられてきたが、これまでその詳細が明らかではなかった。
今回の研究では、レーザーラマン散乱分光法をビスマス-テルル-セレン系材料に適用し、格子振動の高次の項の状態を確認した。レーザーラマン散乱分光法は、試料に単色レーザー光を照射し、散乱してきた光(ラマン散乱光)と入射レーザー光のエネルギー差から、物質中の格子振動のエネルギーを測定する手法だ。散乱光ピークのピーク幅を解析することで、格子振動の緩和時間(格子振動の励起から減衰までの時間)の情報を得ることもできる。
今回実際に、ビスマス-テルル-セレン系材料のラマン散乱スペクトルを広範囲の温度で測定し、その変化を解析した。その結果をさらに、物質の振動特性を解析するための理論モデル「Balkanskiモデル」を使用して解析すると、「格子振動には非調和成分が存在するが、それは3次までの振動であり、4次以上の非調和振動は存在しない」ことが分かった。
4次の非調和振動は大きな振幅を持った格子振動に対応するため、上記の解析結果は、「大振動振幅が熱の流れを阻害することは、ビスマス-テルル-セレン系材料の低熱伝導率の原因ではない」ということを示し、低熱伝導率の原因は、構成元素が重元素であることが主な理由であることを表しているという。
今回の研究結果は、実用熱電材料が低熱伝導率である理由を示すとともに、より低い熱伝導率を持つ熱電材料の開発に指針を与えるものになる。
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