日本板硝子、産業技術総合研究所(産総研)、ゴーフォトンの共同開発チームは、科学技術振興機構(JST)の先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として、「モバイル遺伝子検査機」(小型・軽量リアルタイムPCR装置)の開発に成功した。
従来の細菌やウイルスなどの遺伝子検査は高精度で有用だが、装置は大型で消費電力が大きく、価格も高価で、検査時間も長く専門施設でしか利用できなかった。今回開発された検査機は、小型化・軽量化とともに検査時間の短縮を実現。バッテリー駆動も可能になり場所を問わず遺伝子検査ができる。
産総研では、遺伝子検査方法の中で最も普及しているPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法に着目。薄く小さなプラスチック基板に作製した数十から数百μm程度の溝(マイクロ流路)に試料を注入して高温/低温の領域間を高速移動させることにより遺伝子を増幅させ、蛍光で検出する原理を開発した。
一方日本板硝子では、光通信などに使用される同社のSELFOCマイクロレンズの技術を利用し、暗箱が不要で高感度な小型の蛍光検出器を開発した。振動にも強く、モバイル検査機のキーデバイスとなる。
これらの技術にマイクロ流路内の試料を安定して移動させる技術を組み合わせ、約200mm×100mm×50mmの小型で約500gという軽量のモバイル遺伝子検査機の試作機を完成させた。感度は従来のPCR装置とほぼ等しく、検査時間は、従来約1時間かかっていたものが、約10分に短縮された(産総研開発の大腸菌用高速PCR試薬を用いた例)という。
今回開発された検査機により、これまで専門施設に送付し確定診断を待っていた遺伝子検査が、適切な前処理と高速試薬を組み合わせることで、専門施設外で迅速に行えるようになる。医療現場だけでなく食品衛生調査や空港や港湾での感染症予防の水際対策、移動中の救急車や航空機の中での使用など、幅広い活用が期待できるという。
この検査機の試作機は、研究機関、大学向けに試験的に供給して実地検証を開始しており、日本板硝子より年内に発売することを目標に開発を進めているという。