慶應義塾大学と京都大学は2017年9月14日、気相中で生成させた化学種を液体中に直接打ち込む手法を開発し、超原子と呼ばれる「金属内包シリコンナノクラスターM@Si16」を大量合成し、構造決定することに成功したと発表した。
ナノクラスターは、原子・分子が数個から1000個程度集まったものとされ、原子・分子より大きいがバルクよりは小さく、そのどちらとも違った性質や機能を示す。その性質は、原子数や組成、荷電状態によって制御できるため、触媒、電子デバイス、磁気デバイスなどへの応用が期待されている。しかし、ナノクラスターは現状、微量しか合成できず、その構造を評価することは極めて困難だった。
研究グループは、ナノクラスターの1つである金属内包シリコンナノクラスターに着目し、創製する研究を進めてきた。M@Si16(M=Ti,Ta)ナノクラスターは、シリコン(Si)原子16個のケージを基本骨格に持ち、チタン(Ti)やタンタル(Ta)の金属原子を内包。その内包する金属原子の種類や荷電状態によって化学的性質が著しく変化する。
例えば、Ta@Si16ナノクラスターは、+1価の正イオンが化学的に安定であり、アルカリ金属と類似した安定性を示す。一方、電子の1つ少ないTiを内包するTi@Si16ナノクラスターは中性(0価)の状態が安定であり、希ガス原子と類似した安定性を示す。このM@Si16ナノクラスターは、原子のように振る舞うことから超原子と呼ばれ、機能デバイスを組み立てる上で重要なナノ物質とされている。
研究グループは、マグネトロンスパッタリング法を用いた気相ナノクラスター作製装置を開発。これにナノクラスターを直接液体中に打ち込む技術を組み合わせ、M@Si16ナノクラスターを従来の10万倍以上の効率で合成することに成功した。その結果、20時間程度で100ミリグラム程度のナノクラスター物質を合成することが可能になった。さらに、Si原子に関する核磁気共鳴法によってM@Si16ナノクラスターの構造を評価。正四面体対称性のシリコンかご型構造内に中心金属が内包された構造であることを明らかにした。
同研究グループによると、この技術は、M@Si16に限らず様々なナノクラスターの合成に有効な手法だという。また、金属内包シリコンナノクラスターの、機能材料への応用の道がひらかれたとしている。