2018年5月24日に掲載したこちらの記事について、物質・材料研究機構(NIMS)は9月4日に、測定方法に誤りがあることからプレスリリースを撤回すると発表しました。
データ等を再度検証したところ、「測定の間違いであるとの判断に至った」としています。はんだによる超伝導接合そのものができていたかどうか、これまでのデータでは容易に判断できないため、プレスリリースの全文を撤回するということです。
現在は超伝導はんだによる接合そのものができていたかどうか、検証実験を進めていると説明しています。
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物質・材料研究機構(NIMS)は2018年5月23日、優れた磁場中超伝導特性を持つレアアース系酸化物超伝導線材を、超伝導はんだで接合し超伝導状態を保ったまま通電することに成功したと発表した。電源を使わず半永久的に磁場を出し続ける強磁場永久電流運転電磁石の開発の加速が期待できる。
超伝導線を使った電磁石は、電気抵抗ゼロで大きな電流を流すことができ、強い磁場を生み出せるため、新薬開発に使われるNMR装置などに応用されている。超伝導線同士を、超伝導で接合できれば、電流をほぼ永久に流し続けることができるため、エネルギー消費の低減や電源によるノイズの排除が可能になる。超伝導接合技術の中で、超伝導はんだと呼ばれる低融点金属を用いた接合技術は、簡便なため広く利用されているが、非常に優れた強磁場特性を持つレアアース系酸化物超伝導線は、これまで超伝導はんだで接合することができず、実用化されていなかった。
今回の研究では、超伝導はんだ接合を行う際に、超伝導層が大気にさらされないように保護層をSn(スズ)系合金で置換する初期の工程を詳しく調べた。まず、レアアース系酸化物超伝導線の一番外側のCu(銅)層のみを化学腐食により除去してAg(銀)保護膜のみが超伝導層に付与された状態にした。それを温度200℃以下で一定にした溶融Sn系合金に浸し、時間を細かく区切って溶融Sn系合金による置換処理を行い、反応界面を観察した。その結果、わずか十数分ほどの短い時間で、レアアース系超伝導層(今回の試験の場合、GdBCO層)がSn系合金に侵食され始めることがわかった。一方、置換する時間が短すぎても、良好な電気的結合が得られなかった。
これらの結果を踏まえて、各ステップの処理条件の最適化を図ることにより、超伝導層上に、Pb-Bi(鉛-ビスマス)超伝導はんだ層をコーティングすることに成功した。接合構造としては、平坦な超伝導層面でのはんだ接合が容易に剥がれることがないよう、接合面同士を合わせた状態で加圧熱処理し、薄いCu箔でそのまま接合部分を固定する方法を提案した。
レアアース系酸化物超伝導線材で超伝導はんだ接合が可能になると、すべての実用見込みのある超伝導線材間の接合が可能になる。それにより強磁場永久電流運転電磁石の開発が加速され、汎用NMR装置のコンパクト化によりNMR市場の活性化につながることも期待される。