産業技術総合研究所(産総研)は2018年11月27日、室温下で光を照射するだけで、粘弾性を可逆的に制御できる易加工性のポリマー材料を開発したと発表した。
接着技術は日用品のほか、自動車やエレクトロニクスなど多くの製品の製造工程で広く利用されている。代表的な接着剤の1つであるホットメルト接着剤は、取り扱いが容易なことから一般家庭から工場まで広く利用され、世界で利用される接着剤の20%弱を占めている。加熱溶融、塗布、圧着、冷却することで接着でき、再加熱すれば接着のやり直しが可能なため、接合部材のリサイクル性や、製造プロセスの歩留まり向上につながっている。
一方で、熱の影響を受けやすい精密光学材料や医療用部材の仮止め、付け直しには不向きであり、局所的な加熱が技術的に困難なエレクトロニクス製品の部品交換にも利用できない。そのため、非加熱でリワーク性(貼り付けたり、剥がしたりを繰り返しできる性質)を発揮する新しい接着剤が求められていた。
産総研はこれまでも、光照射により非加熱で液化-固化を繰り返す材料を開発し、1つの応用例として、着脱可能な接着剤の開発を目指してきた。しかし、以前開発した材料は硬くてもろい性状であり、一般のプラスチックと同様の加熱成形加工ができない。このため、接着剤としての利用は困難だった。そこで、光応答性分子を再設計し、加熱による成形加工が可能な新規ポリマー材料の開発に取り組んだ。
今回の開発では、光応答性を示し加熱成形加工できるポリマーを作製するため、光応答部位を持つポリマーと汎用ポリマーをブロック共重合体化。作製したポリマー材料は常温で固体だが、120度以上の加熱により成形でき、支持材が不要な膜厚10 µm以上の自立性のフィルムに加工することができた。
このフィルムに、紫外光(波長365nm)と可視光(波長520nm)をそれぞれ数分間照射したところ、光応答部位の構造変化に伴い、加熱しなくても可逆的に液化(軟化)-固化を繰り返すことができた。軟化過程では、硬さの目安である貯蔵弾性率が最大で100分の1に低下。このとき、ポリマー表面は光照射とほぼ同時に軟化し始め、1分以内に弾性率が大きく減少した。この粘弾性特性を利用すれば、接着力を可逆的に制御でき、繰り返し着脱できるスマート接着剤テープの開発も期待できる。
研究グループは、接着剤テープとしての応用を検討するため、ガラス基板やプラスチック基板を用いた接着試験を実施。実際にフィルム状に加工したポリマー材料を用いることで、光照射のみで基板の接着ができた。また、ポリマー材料が固体状態のときは強固な接着力を示したが、ポリマー材料が液化(軟化)すると接着剤層が流動し、接着力が10分の1以下に低下。接合部を容易にはがせた。
加えて、一度外した基板を再利用し、再び光照射したところ接着でき、着脱サイクルを10回以上繰り返すことができた。このように、加熱がなくてもリワーク性を発揮するスマート接着剤として応用できることが確認された。
今回開発した材料は、成形加工が可能で、光だけで大幅に粘弾性が変化する点が新しい。接着剤としての応用以外にも、特性可変の衝撃吸収材料や摩擦力が変わる表面などへの応用が期待される。
今後は、希望する企業に試料提供を行い、具体的なニーズを把握するとともに、実用化に向けて必要なスペックを向上させる。開発された材料は、一般のプラスチックと同様に加熱成形加工できるうえ、光照射により、非加熱・非接触で、位置選択的な物性制御が可能だ。研究グループは、このような特徴を活かした用途への適用を目指しており、特に、製造プロセスでの仮止めや、解体時に基材を傷めず剥離が可能な接着剤、リワーク性に優れた接着剤などのスマート接着剤への展開を視野に入れて、研究開発を進めていくという。