収入、待遇、やりがい――化学系エンジニアにとっての自動車業界の魅力を考える[クルマ技術の今]


~ 自動車業界の技術トレンドを各分野から見る ~

本記事は、エンジニア専門の人材紹介会社メイテックネクストのキャリアコンサルタント・甲斐 由美氏への取材記事です。自動車業界の技術やキャリアのトレンドについて、機械系・電気系・ソフトウェア系・化学系といった専門分野別に考え、エンジニア市場の変化、求められるマインド・専門性など、エンジニアのキャリア形成に役立つ情報を発信していきます。

前回は番外編として、化学系エンジニアの一般的なキャリアの歩み方などをご紹介しました。今回は自動車業界には化学系エンジニアにとってどのような魅力があるのか、実際の転職成功例などを交えて、お話を伺いました。(執筆:中嶋嘉祐)


――化学メーカーと自動車関連メーカー、両者の待遇面などを比較すると、化学系エンジニアにとってどんな違いがあるのでしょうか。

[メイテックネクスト 甲斐 由美氏]化学メーカーと自動車関連メーカーを比べると、利益率や従業員1人当たりの営業利益は化学メーカーの方が高くなります。従業員1人1人に手厚くできることになりますから、「化学メーカーから自動車関連メーカーに転職して、年収が大幅に上がった」というケースはあまり多くありません。

一方、自動車関連メーカーには福利厚生が充実している企業が多いです。「年収が大幅に上がらなくても、これだけ福利厚生が充実していれば生活水準は変わらない」と判断して、転職を決断する方もいらっしゃいます。

ただ、高分子の成形加工材料や複合材を手掛ける化学メーカーに限ってみると、大半が中堅・中小規模のメーカーになります。そういったメーカーで経験を積んで射出成形に詳しくなり、試作品の成形性なども評価できる化学系エンジニアは、大手の自動車関連メーカーにとっても貴重な即戦力になります。自動車業界へキャリアチェンジすれば、年収面でも大きくステップアップできる可能性は十分にあります。

化学メーカーの研究開発職から、自動車業界の調達・購買職へ転職。その理由は?

――化学メーカーと自動車関連メーカー、それぞれに一長一短があるのなら、純粋にやりがいで判断した方がよさそうですね。

[甲斐氏]実際に、化学メーカーで半導体プロセスを研究していた方が、自動車関連メーカーの“戦略”調達・購買の職種に転職したケースがあります。化学と半導体に詳しく、車載向けのパワー半導体を扱っていたことが採用された決め手でした。

その方は、研究という仕事にこだわっておらず、「自分のかかわった製品を世の中に送り出したい」という志向を強く持っていらっしゃいました。それで最終製品にかかわれて、より大きな規模のビジネスに携われる自動車業界への転職を希望されたのです。

調達・購買の“戦略”を考える仕事は、「新しく導入するこの製品はどのくらいの供給量があるのか」「安定的に調達できるのか」など、対象となる分野の市場や技術に詳しくないと務まりません。その方は半導体プロセスを研究しながら、素材調達の安定性などの見識もあり、調達・購買の“戦略”を担う素養をお持ちだったところが評価されました。

他の例としては、磁性の研究に携わっていた化学系専攻のポストドクターが、大手自動車部品メーカーの研究所に採用されました。現在はモーター関連の研究に携わっているのではないかと思います。

Tier1と呼ばれる大手自動車部品メーカーは、最先端研究にも力を入れています。化学系専攻の研究者やエンジニアを求めている求人もたくさんありますから、「化学系専攻だったから化学メーカーで働く」と選択肢を1つに絞るのではなく、自動車業界なども視野に入れてみることで、自身のキャリアの可能性を広げられるようになります。

自動車業界には30年先を見据えた研究や、総合力が評価される環境もある

――自動車業界でのキャリアには、他にどんな利点がありそうでしょうか。

[甲斐氏]化学系エンジニアにとって自動車業界は、開発テーマの多彩さといった面でもさまざまな可能性を感じられる領域だと思います。

純粋に「手を動かして実験・研究していたい」と希望するのなら、化学メーカーで働くのが一番でしょう。それでも、自動車業界、特にTier1には最先端研究に取り組める仕事があります。中には数十年先を見据えたデバイス関連の基礎研究に携わる研究者もいれば、バイオマス系の研究を長年続けている研究者もいます。そうした長期的なスパンで目先の事情に比較的左右されず、自分の研究に打ち込んでいけるのは自動車業界で働く魅力の1つだと思います。

また、先ほどの事例でも触れましたが、自動車業界で新しい素材を取り扱うとなると、その素材の供給力や安定性まで考慮に入れることが求められます。「この素材は確かに難燃性の面では優れているが、原価が高く簡単には成形できない」といったように、総合的な見識が必要とされるのです。

一点突破で研究できる化学系エンジニアよりも、総合力のある化学系エンジニアの方が評価されやすい傾向にあるのが自動車業界です。「研究だけではなくて、実社会とのつながりを感じていたい」という志向の化学系エンジニアがキャリアを考える際に、自動車業界は魅力的な選択肢になると思います。


甲斐 由美(メイテックネクスト 化学・素材・バイオ分野 コンサルタント)

<メッセージ>
私はこれまで、企業での人事を中心に、マーケティングや会社の立ち上げなど、さまざまな仕事を経験し、多くのエンジニアの方と接してきました。
今の職場や仕事に疑問を抱く時、また新たな挑戦として転職をひとつの選択肢として考える機会は、一度ならずご経験されていると思います。
同じく転職を経験している者として、また人事として数百人の採用、育成に携わってきたアドバイザーとして、ぜひ貴方の未来をお手伝いさせてください。 ご連絡、おまちしております。


取材協力先

メイテックネクスト
メイテックネクスト分野別コンサルタント

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