コンピューターの発熱問題を解決する超伝導スピントロニクス材料

ドイツのコンスタンツ大学の研究チームは、次世代コンピューターのデバイス材料として注目されている超伝導スピントロニクス材料中のスピン構成について、理論モデルと実験結果を発表した。研究成果は2018年11月7日の『Nature Communications』に「Creation of equal-spin triplet superconductivity at the Al/EuS interface」として掲載されている。

コンピューターにおける情報処理は、電気信号を生成し輸送することで実現している。電子回路に電流が流れると電気抵抗による熱が発生する。この発熱は複雑な冷却システムを必要とするため、半導体の小型化にとって重要な問題となっている。

この問題の解決策のひとつとして、コンスタンツ大学の実験物理学グループと理論物理学グループは、電気抵抗がゼロで熱を発生しない超伝導技術と、電子スピンによる磁気情報を利用したスピントロニクスを組み合わせた超伝導スピントロニクス材料について、理論と実験から得られた知見を発表した。

超伝導体による電荷輸送は、逆方向を向いたスピンを持つ電子対によるものが多い。逆向きの電子対は全体として非磁性となり、磁気情報を保持することが出来ない。これに対してスピントロニクスにおいて利用される強磁性体は、電子スピンが同じ向きを向いている。

従来、超伝導と強磁性は相反する現象で、1つの試料中には共存できないと考えられてきた。しかし、最近の研究により、超伝導体と強磁性体と接合させたヘテロ構造では、その界面の電子対のスピンは向きが平行になりうる(スピン三重項)ことが知られるようなった。同じ向きの電子スピン対は磁石の中に浸み込み、スピン三重項超伝導による電荷の長距離輸送が示唆されている。

研究チームは、アルミニウムと硫化ユウロピウムを接合したサンプルを作製し、低温下で高エネルギー分解能の分光計測を実施するために走査型トンネル顕微鏡も開発。アルミニウム-硫化ユウロピウム試料の電荷輸送の空間的およびエネルギー的分解測定を行った。

試料中の電荷輸送の電圧依存性は、電子対のエネルギー分布を表し、超伝導状態の構成を正確に求めることができる。アルミニウム-硫化ユウロピウム試料の界面の状態を表すために、理論グループの回路理論を適用した。回路理論の利点は、基本的な概念から、複雑な電子回路や試料の説明にまで拡張できることだ。理論から予測されたエネルギースペクトルは実験結果と一致していて、電子対の生成と検出について直接的な証拠となった。

研究チームは半導体技術の向上や置き換えに向けて、超伝導スピントロニクスのもつ可能性を明らかにしたいとしている。

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