筑波大学と新潟医療福祉大学は2019年7月9日、キック泳(水中ドルフィンキック)でスイマーが素早く優雅に泳ぐための秘訣が、足裏の渦の作り方とその扱い方にあることを、キック泳中のスイマー周りの水の流れを3次元的に可視化することで解明したと発表した
スイマーが非定常状態(乱流のような水の流れ)を利用して水中を移動していることから、この非定常状態の流れにこそスイマーの推進メカニズム解明の鍵が隠されていると考えられてきた。そこで、筑波大学と新潟医療福祉大学の共同研究チームは今回、競泳レースのスタートとターン後に行われる潜水泳技術である水中ドルフィンキックに着目し、このキック泳中のスイマーの下肢の3次元動作解析と、その周りの水の流れを3次元的に可視化することを試みた。
流れの3次元可視化に当たって、回流水槽を用いて、モーションキャプチャーシステムとステレオPIVシステムで、スイマーの動作と周りの水の流れを同時に計測した。具体的には、解析の段階で座標変換と条件付き加算平均という方法を組み合わせ、複数の流れ場をスイマーの後流側に配置し、流れを立体的に可視化した。
その結果、イルカのように単に両足を上下に振って泳いでいると思われていた水中ドルフィンキックは、実は下肢の捻り動作(内・外旋)が含まれていることが分かった。けり下ろし動作中に強い渦が足の裏側に形成されていき、けり下ろしのフィニッシュ局面で下肢の捻り動作が入ることで足先が互いに近づき、渦を中央に集めて塊にしている様子が確認されたという。
この時、この渦の塊が周りの水を引き寄せるように下向きの強い流れを形成しており、最終的にこの渦の塊とともに強いジェット流(泳者が得た推力を反映)が足先から放出されていた。これらの現象から、この渦の塊こそが足部にかかる力の作用を最大化していることが示唆される。
研究チームは、「以上の結果から、キック泳では、けり下ろし動作で渦を作り出す過程と、その渦をどのように扱うのかで、このジェット流が影響を受け、推進力の大きさも変わるものとみられる。速く泳ぐためには、けり下ろし動作で強い渦を作り出し、それをできるだけ中央に集める捻り動作がキーポイントになりそうだ」としている。
また、今回の研究で開発した、流れの3次元可視化法を用いると、センサー類を身体に貼り付けずにカメラで撮影するだけで、泳者が得た推力を計算できる。今後はこの測定法を応用し、他の泳法でも推進メカニズム解明を進めることで、パフォーマンス向上の方策を提案できる研究を目指す。また、人間が水中を泳げる現象を明らかにすることで、水泳指導法の改良に向けた科学的根拠を提供していくという。