スタンフォード大が研究するナノスケールフォトンダイオード――光子が情報処理する高速コンピューティングに向けて

光が1方向にだけ伝播できるフォトンダイオードをナノスケールで作成する手法が考案された。 Image credit: Getty Images

スタンフォード大学の研究チームが、光を1方向にだけ伝播するフォトンダイオードをナノスケールで作成する手法を考案した。従来の光アイソレータと異なり小型化が可能であり、電子の介在なく光だけでデバイス素子を構成できる新技術の開発が可能になると期待している。研究成果は、2019年7月24日の『Nature Communications』誌に公開されている。

現代のエレクトロニクスにおいて、電子を利用したダイオードは至るところにある。しかし電子ではなく光、即ちフォトン(光子)だけを活用したダイオードができれば、もっと高速かつエネルギー効率の高い情報処理が可能になる。

そこで、同大材料科学工学科のJennifer Dionne准教授が指導する研究チームは、光を1方向にしか流さないフォトンダイオードを、ナノスケールで作成することにチャレンジした。フォトンベースのダイオード開発には、2つの克服すべき課題がある。ひとつは、熱力学の法則に従えば、光は物体内を1方向だけでなく反対方向にも伝播すること。もうひとつは、フォトンは電荷を持たないので、電子に比べて制御するのが難しいということだ。

これまでにも、光を1方向にだけ伝播させる光アイソレータはあった。偏光フィルターを通過した光の偏光面を、磁場下の磁性ガーネット結晶中で、磁気光学効果により回転させ、その回転偏光面に正確に対応した出口側偏光フィルターを通過して外部に導くというものだ。

光が反対方向に進む場合には、偏光面の回転が出口側偏光フィルターとは逆方向になるので、光は外部に出ることができず、そのため1方向にだけ光を伝播するフォトンダイオードとして機能する。しかしながら偏光面を充分に強く回転させるため、システムは比較的大きなものになり、コンピューターやスマートフォンに納めることができない。

研究チームは、磁場の代わりに「ポンプ光」を使って偏光面を回転する方法を考案し、コンピュータ・シミュレーションによって効果を確認した。螺旋運動する偏光面を持つポンプ光が、結晶中に回転する音響フォノンを発生させることにより、入射光線の偏光面を回転するとともに、ラマン増幅効果によって入射光線を増幅して外部へ導く。一方、光が逆方向に進む場合には、音響フォノンが逆方向に回転し、外部に出ようとする光線を打ち消すので、フォトンダイオードの機能をナノスケールで発揮するというものだ。

このシステムの微細化について理論的な限界はなく、シミュレーションでは250nmの薄い構造を想定しており、商用電子デバイスにも充分に対応できる。「光子が全ての情報処理を実行する、オール光のダイオードが開発されれば、極めて高速の次世代コンピューターや通信、さらにエネルギー変換技術が可能になる」と、研究チームは期待する。

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