英ヨーク大学は、2020年10月8日、「市松模様」をソーラーパネル表面にデザインすると光の吸収率が向上することを発見したと発表した。このようなデザインのソーラーパネルは再生可能エネルギーの利用拡大を促進する可能性があると大きく期待される。研究成果は、オンラインジャーナル『Optica』に2020年10月8日付で発表されている。
ソーラーパネルの表面デザインは、表面反射の低減、内部反射の増大、活物質中での光路長の増大を可能にするなど光吸収効率に影響することが知られており、研究者らは、異なる表面デザインがソーラーパネルの太陽光吸収にどのように影響を与えるかを調べる研究を進めていた。
これまでは、単純な直線格子状パターンの表面デザインが光の吸収率をわずかに向上させるという研究成果しかなく、より複雑な表面デザインで光の吸収効率を上げようとする研究分野が生まれることになった。しかし、研究者らは生物系に着目。実際に、バラの花びらや熱帯に生息するチョウの羽に見られる屈折効果や回折効果による光吸収増強が既に考案されており、研究者らは、構造の優位性を回折パターンの低対称性と結び付けようとする先行研究などを調べたという。
その中で、勾配のない隆起した直線を組み合わせて作った市松模様のようなデザインが光の回折を改善し、電気を生成する光の吸収効率を高めることを発見。実際に、ソーラーパネル表面をデザインしたところ、1?m厚シリコン結晶板のバルク電流を125%向上させる実験結果を示したという。
論文の責任著者であるChristian Stefano Schuster博士は「原理的には、同じ量の吸収体材料で10倍以上の太陽光発電を生み出すことが可能です。太陽電池が10分の1の薄さになれば、太陽光発電の急速拡大が可能になって、太陽光発電による発電量が増え、二酸化炭素排出量の大幅削減につながるでしょう」と語っている。
現実的に考えてみても、ソーラーパネル素材の原料となるシリコンの精製プロセスには大量のエネルギーが必要となることから、10分の1の薄さであるシリコンセルを提案することは精製プロセスの必要性を減らし、コスト削減にもつながる。このデザインは擬似ランダム構造の基本要素として、周期的な浅い格子を使用しているので大量生産にも適しているという。
光吸収能力の向上に大きく貢献するこのデザインにより、より薄く柔軟性のある材料に太陽電池を組み込むことができるようになると考えられ、幅広い製品で太陽光発電を利用できるようになることが期待される。
さらに、研究者らは、このデザインの設計原理が太陽電池やLED分野だけでなく、雑音シールドや風防パネル、滑り止め表面、バイオセンサー、原子冷却などにも影響をもたらすことを期待している。