磁気を使って遠隔操作――脳血管をすり抜けるほど細い糸状ロボットを開発

Image courtesy of the researchers

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、糸の様に細く磁気で制御できるロボットを開発した。生体適合性のあるハイドロゲルで覆われており、狭く曲がりくねった脳血管を傷つけることなく患部に到達できる。患者の負担が軽減すると共に、医師は離れた場所からでも血栓や閉塞の治療が可能になるという。研究成果は、2019年8月28日付けの『Science Robotics』に掲載されている。

脳内の血栓除去には、一般的にはカテーテルを使った低侵襲な血管内治療を採用することが多い。医師はX線透過像を見ながら、手動で細いガイドワイヤを患部に送り込む必要がある。脳血管は非常に狭い場所、曲がりくねった場所も多く、ワイヤが血管内壁をこすって損傷を与える可能性もあるため、操作する医師の技量が問われることになる。

そこで研究チームは、表面摩擦が少なく遠隔操作可能なガイドワイヤとなる糸状ロボットを開発した。糸状ロボットのコアとなるのは「ニチノール」と呼ばれるニッケル-チタンの形状記憶合金だ。柔軟性と弾性力も高く、狭く曲がりくねった血管内を進むことができる。このコアを、磁性粒子を含んだゴム状のペーストで覆い、さらにその上から生体適合性を持つハイドロゲルで覆って、磁気制御可能なロボットが完成した。

研究チームが作製したプロトタイプは、磁石の動きに追随し、血管模型の中を進むことができた。最表面をハイドロゲルで覆うことで、ロボットの血管内での動きが滑らかになり、狭い場所でも詰まることなく通せることも判明した。ハイドロゲルは磁性粒子の応答性にも影響を与えない。血管の内側との摩擦や損傷を防げるという点は、血管内治療において重要だ。

磁気制御により、医師は手術台とX線透視装置の近くでガイドワイヤの操作をする必要がなくなり、必要ならば遠隔操作での治療も可能になる。患者はより安全な手術が受けられ、医師はX線撮像による被爆を低減できる。

ロボットのコアを別の材料に置き換えることも可能で、光ファイバーとレーザーを使った血栓の破壊治療も考えられる。これまでアクセスできなかった部位に、血栓溶解剤を運べるようになるかもしれない。開頭手術でしかできなかった治療を置き換えられる可能性もある。研究チームは、次のステップとして糸状ロボットを実際の生体内で試験したいとしている。

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