電子機器の発熱を大幅に削減できる――マグノンを利用した磁化スイッチングに成功

シンガポール国立大学の研究チームは、室温でスピン波を利用した磁化スイッチングに成功した。電流を使用することなく情報をエンコードする画期的な方法であり、ジュール熱の大幅な低減が可能で、エネルギー効率の高い高速デバイスの開発につながる可能性がある。研究結果は、2019年11月29日付けの『Science』に掲載されている。

携帯電話、コンピュータといった電子機器を使っていると、デバイスが熱くなったり、動作が遅くなることがよくある。「我々は、常にそのような問題に直面し、不便に思っている」と、研究チームを率いるYang Hyunsoo教授は指摘する。

この現象は、デバイスが電子の移動を利用しているためで、発熱は避けて通れない問題だ。これは、相当量の電力が散逸してしまう原因となるだけでなく、チップの処理速度を妨げ、製品に組み込めるチップの数を制限するものだ。

そこで、研究チームは「スピン波」を利用した磁化スイッチングに取り組んだ。スピン波は磁性材料中の秩序の乱れが伝播することで、量子化表現したものは「マグノン」と呼ばれている。スピン波は長距離伝播が可能で、電子と異なり絶縁体中でもスピン情報を運ぶことができる。さらに電子の移動を伴わないため、ジュール熱の発生と電力の散逸が激減することが期待できる。

マグノンから局所的な磁化へスピン情報を転送すれば、磁化を制御することができる。研究チームは、このマグノン流ベースのメカニズムを、電子が介在するスピントランスファートルクと対比して「マグノントルク」と説明する。

研究チームは、酸化ニッケル(NiO)とセレン化ビスマス(Bi2Se3)を、反強磁性マグノン輸送チャネルとトポロジカル絶縁体スピンソースとする二重層システムを構築した。NiOには強磁性層が隣接している。研究チームは実験から、マグノン流が電子の移動を伴うことなく、効率的にスピン角運動量を運ぶことを示した。

「我々の研究は初めて、マグノントルクが室温における磁化スイッチングに有効だと示した。マグノントルクの効率は、従来の電気的なスピントルクの効率と同等ですらあった」と、Yang教授は語る。

今後は、電子部品を含まないオールマグノンのデータメモリやロジックデバイスの実現に向けて、マグノントルクの効率をさらに改善する予定だ。また、スピン波の動作周波数がテラヘルツ領域に達することを利用すれば「将来、超高速アプリケーションにつながる可能性がある」と、Yang教授は期待を込めている。

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