人間の眼を超える解像度を持つ人工眼球を開発

香港科技大学の研究チームは、人間の眼球を模倣した球形の視覚システムを開発した。ペロブスカイトナノワイヤアレイを人工網膜に高密度に統合することで、高い解像度を実現したもので、ロボット工学や人工眼への応用が期待される。研究結果は、2020年5月20日付けの『Nature』に掲載されている。

人間の目は、広い視野、高い解像度といった並外れた画像センシング機能を持つため、これを模倣したデバイスのニーズは非常に高い。しかし、球面状の人間の網膜を再現するのは非常に難しく、「現在病院で使われている人工視覚は、平面状のICチップを利用するため網膜の一部しか模倣できず、視界がはっきりしない」と、研究チームを率いるZhiyong Fan教授は指摘し、「2012年、私は高密度のセンサーを球面に組み込むために、ナノワイヤと外付けの電子回路を使うというアイデアを思い付いた」と、研究の出発点を語っている。

研究チームは、半球に加工した酸化アルミニウム膜に、ペロブスカイト材料でできたナノワイヤを高密度に埋め込んで人工網膜を作製した。ペロブスカイトは太陽電池にも使われる材料で、ここでは光エネルギーを電気に変換する光センサーとして機能する。プロトタイプのセンサー数は人間の眼の30倍で、センシングロッド間の距離は3μmに抑えたという。センサーからの信号は液体金属ワイヤ―を介して、外部回路に送信される。

さらにアルミニウムの半球シェルと組み合わせて球形にし、内部を荷電粒子が移動できるようにイオン液体で満たし、デバイスの前面にはレンズを配置した。つまり、レンズが水晶体、イオン液体が硝子体、ナノワイヤが視細胞、液体金属が視神経というわけだ。

「EC-EYE(ElectroChemical Eye)」と名付けた人工眼球のテストから、一番暗い時の条件でナノワイヤ1本あたり毎秒86個の光子を捕らえていることが分かった。デバイスの応答性と回復性は、人間の眼と同等か上回る結果を示した。また、「E」「I」「Y」の文字を人工眼球に投影し、再現することもできた。解像度はまだ10×10ピクセルしかないが、センサーごとに処理をすればより高い解像度を得ることができるという。

研究チームによれば、患者のケアにあたる医療用ロボットに搭載できるほか、適切な生体適合材料を組み合わせることで視覚障害者にも対応できるとの期待を明らかにしている。

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