情報通信研究機構(NICT)は2022年6月9日、高精度な光格子時計を使って、日本の国家標準時を生成することに成功したと発表した。国家標準時を光格子時計で生成するのは世界初。これによって、協定世界時(UTC)など他国の時計に頼ることなく長期にわたって正確な時刻を刻むことが可能になる。
同機構によると、光格子時計が発生する1秒を基準として、日本の標準時が刻む1秒の長さ(刻み幅)を調整。UTCに対する時刻差を、従来の10億分の20秒から10億分の5秒以内へと4分の1以下に抑えられるようにした。
現在、日本の標準時は水素メーザ原子時計と約18台のセシウム原子時計を組み合わせることで、安定的に時を刻んでいる。しかし、これらマイクロ波領域の商用原子時計は、多数台の時計の平均をとっても、発振周波数が15桁目で変動し、数カ月の単位でUTCとの時刻差が10ナノ秒以上に広がってしまう。このため、UTCを提供する国際度量衡局(BIPM)から半月遅れで公表される時刻差データをもとに、手作業で日本標準時の周波数を調整しなければならない。
これに対し、NICTはより高い精度が期待できるストロンチウム光格子時計の開発に取り組んできた。過去10年近く世界の多数の機関で行われた測定の結果、開発されたストロンチウム光格子時計の光学遷移の固有周波数は不確かさが極めて小さいことが確認されている。この周波数を持つ光を、精度を落とさずにマイクロ波の電気信号に変換し、日本標準時のマイクロ波と比べれば、日本標準時とUTCのずれを16桁の精度で正確に計測できる。
NICTは2021年6月から週1回以上の頻度で日本の標準時の妥当性評価を行い、同年8月からは周波数調整を継続的に実施。標準時とUTCの差の拡大を抑えられたとしている。
近年はカーナビや無線通信網がGPSを通じて時刻を取得するなどしているが、過度なGPS依存には警鐘が鳴らされている。このためNICTは、UTCやGPSなどの他国のシステムに依存せず正確な時刻を刻めるようになることは経済安全保障につながるとしている。また、災害対策の観点から、NICT本部(東京都小金井市)の原子時計のみによる標準時生成を、NICT神戸副局などを利用して分散化することにも取り組む。
さらに、今後は次世代の通信技術や相対論による測地技術などに活用する方法を開発、提案していくという。