プラスチックで放熱する――逆転の発想で電子機器の過熱を防ぐ熱伝導性ポリマーを開発

ラップトップやスマートフォンの過熱を防止できる熱伝導性ポリマー

MITの研究チームが、従来のプラスチックの約10倍という高い熱伝導性を持つ熱伝導性ポリマーの開発に成功した。ラップトップやスマートフォンなどのプラスチックケースに使用すれば内部で発生する熱をより効果的に放散することができ、デバイスの過熱防止に有用な技術だ。研究成果は、2018年3月30日の『Science Advances』誌に公開されている。

電子部品のケースやコーヒーカップのスリーブ等に利用されている一般的なプラスチックは、優れた絶縁性と断熱性を備えている。その微細構造は、モノマーや分子単位が重合した長いチェーンのようなものだが、このチェーンが絡み合ったスパゲッティのように無秩序にもつれている。プラスチックは絶縁体であるため、熱の伝導は伝導電子ではなくフォノンを介するものが主体となるが、フォノンはこの絡み合った無秩序な分子配列の中を移動するのが難しいため、熱伝導度が低くなる。

これがプラスチックの断熱性を高くしている理由だが、発熱する電子部品のケースとして使うと、デバイスの発生熱を閉じ込める要因にもなる。そこで、MIT機械工学科のGang Chen教授の研究チームは、プラスチックを断熱体ではなく熱伝導体に変換する研究を進めてきた。

これまで2010年に、ポリエチレンをベースとして、乱雑なポリマーの配列が一直線に並んだチェーンのように引き延ばされた「超延伸ナノ繊維」を開発した。この中ではフォノンがチェーンの結び目に捕らわれることなく容易に熱を伝導するため、通常のプラスチックの300倍という熱伝導度を示した。しかしながら、熱が伝わるのはチェーンの長さに沿った1方向のみで、分子間力(ファンデルワールス力)が作用するチェーンとチェーンの並び、つまり横方向にはフォノンが移動できないという限界があった。

今回研究チームは、共役系ポリマーであるポリチオフェンを化学気相成長させる際に、酸化剤と反応させることにより、分子内および分子間の力を同時に制御することに成功した。これにより得られた約2cmの薄膜ポリマーは、一般的なポリマーの10倍という熱伝導率を示し、かつ全方向に等しく熱を伝達するため、高い放熱効果を生み出すという。

研究チームは、「この材料は、プラスチックの特徴である電気絶縁性と耐食性とともに、高い熱伝導性を備えている。電池ケースやプリント回路基板用フィルムなど発熱する電子部品の熱制御に活用できるとともに、シリコン基板や電子部品を直接被覆できるので、次世代オプトエレクトロニクスやエネルギーデバイスにも応用できる」と、その活用可能性に期待をみせている。

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Engineers turn plastic insulator into heat conductor

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