理化学研究所(理研)は2023年4月14日、外部から加えられた力の左右方向を見分け、一方向にのみ変形するゲル材料を開発したと発表した。「エントロピー増大」に逆らう能力を持つ材料で、物質の分離やエネルギーの回収、生物の行動の制御など幅広い分野での活用が期待できる。研究成果は4月13日(現地時間)付の科学雑誌『Science』オンライン版に掲載された。
理研などの研究グループは、水中に分散した酸化グラフェンのナノシートに磁場を加え、全てのナノシートを斜めに配向させた後、あらかじめ水中に溶解させておいたモノマーと架橋剤を重合することで新たなゲル材料を合成した。
このゲルに上から横方向に力を加えると、左向きの力に対してはナノシートがたわみ、ゲルは容易に変形する一方、右向きの力に対してはナノシートがたわまず、ゲルは強固に抵抗する。この左右の力に対する硬さには67倍もの差があり、ゲルはあたかも「中心から左右どちらかにしか振れない振り子」のような動きを見せる。
左または右から加えられた刺激に対し、刺激の方向によって異なる反応を示すことを「極性」といい、電気や磁気、光の刺激に対して極性を示す材料は長年にわたり研究されてきた。しかし、力に対する極性を示す材料は全く考えられてこなかった。研究グループは開発した新材料を「力学極性ゲル」と名付けた。
力学極性ゲルに水平の振動を与えると、左右非対称に振動し、ゲルの上に置いた水滴は必ず右方向に移動するほか、円柱を押し当てると押し当てられた部分のひずみも左右非対称となる。また、上から鉄球などを落とすと必ず右方向に弾み、20匹の線虫をゲルの上に置く実験では、すべての線虫が右方向に移動し、最後は右端に達した。
研究グループは、力学極性ゲルの特性を生かせば、乱雑な振動エネルギーを回収するデバイスや、力を望んだ方向に伝達する高機能スポーツ用品、細胞の遊走や分化を制御する次世代型培地などの開発が期待できるとしている。