東京大学は2023年7月4日、同大学物性研究所、同大学大学院新領域創成科学研究科および分子科学研究所らの共同研究グループが、室温以上で金属化する高伝導オリゴマー型有機伝導体を開発したと発表した。
昨今、軽量で柔軟な有機伝導体が注目を集めており、ドープ型PEDOTなどの導電性高分子材料が工業的に実用化されている。
高分子は合成がしやすく、電気伝導性にも優れる。一方で、さまざまな長さからなる分子鎖の混合物であるため、詳細な構造や伝導メカニズムの情報を得ることが難しかった。
同研究グループは2021年に、ドープ型PEDOTの単結晶モデルとして、最短の2量体オリゴマー型伝導体を開発した。しかし、伝導度が10-3-10-5 S cm-1と低く留まっている。これは2量体という共役系サイズの狭さが要因とみられる。
そこで、分子鎖を伸長したところ、中性のドナー自体が溶解しにくくなり、酸化に対しても不安定になってしまうという合成上の問題が生じた。
これらを受けて、溶解性補助などの特徴ある機能を有する複数のユニットを並べた配列構造を導入することとした。
2種類のユニット(下図のPとS)を組み合わせたP–S–S–Pという4量体を配列したところ、中央に嵩高いSユニットが連続(S–S)することで、分子自体が捻れてπ共役系が分断され、ドナー分子の溶解性や安定性が向上した。
ドナーの捻れた構造は、ドナーを酸化(電子放出)して有機伝導体となる際には解消し、π積層を阻害しない平面構造へと変化した。酸化反応によりプラスの電荷を帯びたドナーは、-1価の陰イオン(アニオン)と1:1の比で対をなして積層し、ドナーが傾斜してπ積層したハの字型積層構造を示している。
その電子構造は擬一次元的なものとなり、以前の一次元的な電子構造と比べて高次元化した。また、この積層構造には柱状の隙間が残存しており、中に0.2分子分の余剰のアニオン(上図にて緑色の球体で表示)を含んでいる。これは、電子構造が半充填状態(電子が半分存在する状態)から逸脱しており、伝導性に優れることを示唆するものとなっている。
室温伝導度を実際に計測したところ、36 S cm–1となった。同じアニオンを有する2量体の時と比べて6桁上昇しており、同発表によるとオリゴマー有機伝導体の中でトップレベルの数値だという。加えて、室温以上では金属的な電子状態を示した。
今回の研究結果は、有機伝導体材料開発における新たな潮流の発生や、有機電子デバイス開発の技術革新に繋がることが期待される。
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室温以上で金属化する高伝導オリゴマー型有機伝導体を開発 ―電子機能性を制御する新コンセプトによる有機電子デバイス開発の技術革新に期待― | 物性研究所