科学技術振興機構(JST)の中嶋一雄研究チームリーダーらは2016年8月9日、生産性の高いキャスト成長炉で作製したシリコン単結晶インゴットを用いて太陽電池を製作し、高変換効率を高い歩留まりで実現したと発表した。文部科学省の革新的エネルギー研究開発拠点形成事業による研究成果だ。
現在使用されている太陽電池の大半はシリコン単結晶または多結晶から作製されている。キャスト成長炉を用いる多結晶はCZ成長炉を用いる単結晶より生産性が高いことから、市場占有率が高い。しかし多結晶は単結晶と比べ、変換効率が単結晶より1〜1.5%%程度低く、また歩留まりが悪いという課題がある。
今回、同研究チームでは、多結晶インゴットを得るためのキャスト成長炉に、さらに融液内に独自に低温領域を設定し、ルツボ壁に触れないで単結晶を成長させることができるNOC(Noncontact Crucible)法と呼ばれる新しい単結晶作製法を開発した。
キャスト成長炉の生産性の高さに加え、主な汚染物質である鉄不純物を除去する炉内クリーン化や、結晶の引き上げ速度と回転速度の調整などによる結晶内転位と酸素濃度の低減といった工夫により変換効率の向上が図られている。
この手法によって作製したp-型シリコン単結晶を用いたAI-BSF構造の太陽電池は、最高変換効率が19.14%、平均の変換効率が19.0%となり、CZ法の単結晶と同等の高効率太陽電池を、高い歩留まりで実現することに成功。現在太陽電池市場で主流を占めているキャスト成長法で作製した多結晶太陽電池と比べ、電池特性、歩留まりともに優位を示している。
JSTによると、今後スケールアップ技術が進展すれば、メガソーラなど太陽電池用シリコンインゴットの製造方法の主流になることが期待されるとしている。