名古屋大学など、低温/低水素圧で安定アミドを効率よくアミンやアルコールに変換する触媒を開発

科学技術振興機構(JST)と名古屋大学は平成29年5月16日、同大学大学院理学研究科の斎藤進教授らの研究グループが、多彩な安定アミドをアミンやアルコールに効率よく変換(水素化)できる触媒を開発したと発表した。低温/低水素圧の条件で反応が進み、副生成物が少なく、多くの種類のアミドを目的のアミンやアルコールのみに変換できる。

近年、ナイロンやケブラーなどの安定アミドをアミンやアルコールに変換し、再生可能な炭素資源として有効利用することが求められている。水素化は廃棄物を出さないクリーンな変換方法として、理想的な手法の1つに挙げられている。しかし安定アミドは化学的に反応しにくく、最も水素化が困難なカルボニル化合物として知られており、水素化には高温と高水素圧条件が必要とされてきた。

同研究グループでは、ルテニウム(Ru)という金属を用いた金属錯体(金属と有機分子による複合体)の水素化触媒としての性能を長年にわたり研究してきた。2013年にはリン(P)原子1つと窒素(N)原子1つからなるPN配位子を2つ持つルテニウム錯体「(PN)2Ru」を用いて安定アミドの水素化を実現したが、反応には高温と高水素圧条件が必要だった。

今回同研究グループは、PN配位子を2つつなげた新しい配位子「PNNP」を持つルテニウム錯体「(PNNP)Ru錯体」を用いることで、大幅に効率的に(最も温和な条件では温度60℃、水素圧5気圧)安定アミドを水素化し、アミンやアルコールに変換できることを発見。PNNPのNN(すなわちN-Ru-N部分)が触媒にとって非常に重要な構造の一部であることを証明した。同じNNでもビピリジン(ピリジン2分子が結合したもの)骨格を持つことが重要となる。

さらに、ルテニウム錯体につながったリン原子にイソプロピル基やシクロヘキシル基など立体的に大きなサイズの炭素の鎖が結合している場合、ルテニウム錯体が安定アミドの水素化触媒として非常に優れた性能を示すことを発見した。特にイソプロピル基を持つ新しいルテニウム錯体は、従来の錯体では全く機能しない温和な反応条件でもアミドを水素化できる触媒となることがわかった。

これまでの金属錯体を用いたアミド基の水素化触媒の成功例は、より反応しやすい1〜2種類の活性アミドにほぼ限られていた。触媒が、これらのアミド基が反応しやすいように分子設計されたものであり、構造が異なる再生可能資源由来の安定アミド等の水素化にはほとんど役立たなかったためだ。これに対して、今回開発された触媒は、再生可能資源であるたんぱく質の構成成分オリゴペプチド骨格やナイロン系高分子などの大きい安定アミドを含め25種類以上の安定アミドを高効率で水素化できる。

二酸化炭素由来の安定アミド(ホルムアミド)を水素化することでメタノールも得られるため、簡便なメタノールの合成法として、二酸化炭素の資源利用にも貢献する。また、温和な反応条件で反応が進行するため、副生成物が少なく、目的のアミンやアルコールのみを効率よく得ることができる。

同研究グループは、今回の触媒がなぜ安定アミドの水素化触媒として優れた機能を発揮するのかも調べた。水素化に有効な温度や水素圧環境下で、ルテニウム原子と、サイズの大きな炭素の鎖を持つリン原子、およびビピリジンでつくる構造そのものが、アミド基の水素化の前に水素化されて、触媒として機能する上で重要な最初の構造に変化することが判明。さらに構造の変化によって多彩な触媒がつくられ、安定な水素分子と安定アミドの両方が反応しやすい状態になっていることがわかった。

実際にはさまざまな構造のルテニウム錯体が温度や水素圧に応じて発生し、水素化に寄与していると考えられ、またどの構造の触媒も頑丈な構造を持つため活性を失いにくい。「1つのルテニウムで目的の生成物をいくつつくれるか」を示す「触媒回転数」は最高で8000程度と極めて高い値を示しているという。

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