実用的な設計で史上最高レベルの原子時計――3000億年に1秒の誤差、暗黒物質の検出に利用可能

Provided by Shimon Kolkowitz.

ウィスコンシン大学マディソン校が、史上最高レベルの性能の原子時計を製作したと発表した。今回開発した装置は光格子原子時計として知られ、3000億年に1秒の誤差精度で時間差を測定できる。研究成果は2022年2月16日、「Nature」に掲載された。

原子時計が大変正確なのは、原子の共鳴周波数を利用しているためだ。共鳴周波数とは、原子がエネルギーを変えるとき、吸収または放出される光の原子固有の周波数である。原子時計では、この周波数に正確に合うようにレーザーを調節して時間を計るため、世界最高水準のレーザーが必要となる。

しかし、原子時計の製品化には、持ち運びができる市販のレーザーが求められる。そこで研究チームは、標準的なレーザーを使用できる原子時計を設計しようと考えた。

今回の研究では、同じ真空槽に一列に並べた多数の時計にストロンチウム原子を分けた「多重時計」を製作した。1個の原子時計だけを使った場合、研究チームのレーザーが原子と同じ数の電子を確実に励起できるのは0.1秒だけだと分かった。

しかし、2個の原子時計に同時にレーザーを照射した場合、励起電子を持つ原子の数は、最大26秒間、2つの時計間で同じく保たれた。この結果は、研究チームのレーザーでも通常の光時計より十分な時間で実験ができることを意味している。

次に、時計同士の違いをどれだけ正確に測れるかを調べた。重力や磁場などの影響により、わずかに異なる環境にある2つの原子時計は、異なる速度で時を刻むと予想される。そこで研究チームは1000回以上実験を行い、約3時間にわたり時計を測定した。予想どおり、2つの時計はわずかに異なる場所にあることを反映し、時の刻む速度もわずかに異なった。より多く計測するにつれて、速度の違いをより正確に計測できるようになることを実証した。

2つの時計間で検出した時を刻む速度の違いは、3000億年に1秒しかずれないことに相当し、空間的に離れた2つの時計としては世界記録となる精密な時間測定であった。

Natureの同号に掲載された別の論文がなければ、本研究は総合的に最も正確な周波数差の世界記録となっていた。別の研究とは、コロラド州の研究機関であるJILAのグループが主導した研究で、上下の原子雲での周波数差を検出しており、ウィスコンシン大学の研究チームより約10倍も優れていた。しかし、ウィスコンシン大学の研究チームは1桁も性能が悪いレーザーを使っているにもかかわらず、JILAグループと同等の性能を達成しており、実用面においては大きな意味を持つ。

ウィスコンシン大学の研究チームは、製作した時計の実用性を示すために、ループ内に配置した6つの原子からなる多重時計間の周波数変化を比較した。ループして最初の時計に戻った時、周波数差はプラスマイナスゼロになることが分かり、時計回路内のわずかな周波数変化も検出できる可能性が出てきた。

本研究成果は、史上最高レベルの性能の超精密原子時計を製作したというだけでなく、同一環境下で6つの時計が存在可能な多重光時計の最初の例となった。重力波や暗黒物質の検出、新たな物理学の発見に貢献する可能性がある。

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