安定した充放電が可能な高容量リチウム二次電池正極材料を開発――電気自動車普及を加速化

韓国、浦項工科大学 (POSTECH)のByoungwoo Kang教授とJunghwa Lee博士らの研究チームは、高価で毒性を持つコバルトを用いずに、500回以上安定的に充放電可能な高容量リチウムイオン二次電池正極材料の開発に成功した。研究成果は、2021年2月1日付で、米国化学会の『ACS Energy Letters』にオンライン掲載されている。

Li(リチウム)リッチ層状材料は、次世代の高容量正極材料として注目されている。研究では、Liリッチ層状材料について局部構造を制御することのできる簡単な合成法を開発した。長距離走行可能な電気自動車の実現を早めると期待されている。

電気自動車の走行距離と充放電サイクル特性は、リチウムイオン二次電池の電極材料の性質に依存する。リチウムイオン二次電池の代表的な構成は、正極にリチウム遷移金属複合酸化物、負極に炭素材料、電解質に非水電解質となっている。正極にLiリッチ層状材料を用いた場合、リチウム含有量が高く電池容量が高くなる。しかし、充放電を繰り返すと大量のリチウムが溶出し堆積することで、急激に特性が悪化する。このサイクル特性の悪化が、Liリッチ層状正極材料の商業化を阻んでいる。

研究チームは、これまでの研究でLiリッチ層と遷移金属層の間の均一な原子分散が、Liリッチ層状材料の電気化学活性とサイクル特性改善のための重要な因子であることを突き止めていた。今回の研究では、すでに発表した固体反応を用い、最適な原子の分散状態を持った正極材料を提供することのできる、簡単で効率的な合成手法を開発した。その結果、合成されたLiリッチ層状材料は、最適化された局部構造を有し、数百回以上に安定して電池反応を行うことを確認した。

合成されたLiリッチ層状材料による正極は、最適化条件においてエネルギー密度1,100 Wh/kgを示した。この値は市販の正極(例えば、LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)のエネルギー密度(600 Wh/kg)の1.8倍であった。さらに、大量のリチウムが流出しても正極の構造が保たれるため、充放電100サイクルの繰り返し後に95%の電池容量、500サイクル後でも83%の容量を保持した。

「今回の発見は、シンプルなプロセスの変更で、次世代Liリッチ層状材料の課題でもあるサイクル特性を飛躍的に向上させた。商業化に大きく前進した」と、Kang教授は語っている。

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Long-Term Cycle Stability Enabled by the Incorporation of Ni into Li2MnO3 Phase in the Mn-Based Li-Rich Layered Materials

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