東京大学は2017年8月10日、同大学院の研究グループが京都大学、英ブリストル大学、仏エコール・ポリテクニーク、独マックスプランク研究所と共同で、レアアース(希土類)元素Ce(セリウム)をベースとした超伝導体「CeCu2Si2」における超伝導発現機構を解明したと発表した。今回の成果が、電子間の相互作用が強い系(強相関電子系)で発現する超伝導の統一的な理解に向けた重要な手掛かりとなることが期待されるとしている。
超伝導状態を説明する代表的な理論としては、1957年に発表されたBCS理論があり、通常金属において発現する超伝導の多くは、このBCS理論で説明される。しかし、強相関電子系における超伝導状態はBCS理論のみでは説明できず、非従来型超伝導と呼ばれている。
1979年に発見されたレアアース系超伝導体CeCu2Si2は、非従来型超伝導の先駆け物質であり、強相関電子系で発現する超伝導の代表例である銅酸化物高温超伝導体や、鉄系超伝導体と多くの共通点を示すことから、超伝導研究の鍵となる物質と考えられてきた。CeCu2Si2は、組成を変化させた際に磁気秩序相を生ずることから、長年にわたり磁気的なゆらぎを媒介とした超伝導機構が提唱されていた。
超伝導の発現機構を解明する上で有力な手掛かりとなるのが、超伝導電子の電子状態の対称性であり、CeCu2Si2も銅酸化物高温超伝導体と同じく、磁気的機構を起源とした超伝導で期待されるd波型の対称性の電子状態をとると思われてきた。しかし、同大学が行った最近の共同研究でs波型の対称性であることが明らかになり、超伝導の発現機構について再び注目が集まっていた。
今回、試料中の不純物が超伝導電子に与える影響を、30ミリケルビン(室温の約1万分の1の温度)の極低温まで詳細に調べた結果、磁気的な超伝導機構に特有の変化がないことが明らかになり、長年信じられてきた磁気的なゆらぎに基づく超伝導の機構の可能性を完全に排除した。
今回の成果は、その発見以来長年にわたり議論が続いていたCeCu2Si2の超伝導発現機構に決定的な証拠を与える発見であり、強相関電子系で発現する超伝導の統一的な理解への寄与が期待されるとしている。