産業技術総合研究所(産総研)は2018年2月13日、接着と脱着を制御可能で、繰り返し使える光硬化性接着剤を開発したと発表した。
この接着剤は光照射による硬化と、加熱による液化を繰り返す。枝分れした構造の糖アルコールと、光に応答して互いに結合する複数のアントラセンを組み合わせた透明な液状物質を用いている。
産総研では、これまでにも脱着可能な接着剤として使える材料の研究に取り組んできたが、光反応性部位にアゾベンゼン系の色素を用いていたため接着剤自体に黄色~橙色の色が着いている、力学的な強度が低く接着強度に限界がある、接着剤の初期状態が固体で塗布が困難――といった複数の課題があった。
アントラセンは、可視光領域でほとんど光を吸収しないが、400~420nmの光を吸収して分子間で2量化して硬化する。加熱によって解離するが、アントラセン自体は結晶(固体)のままでいる。
産総研の秋山陽久主任研究員は、こうしたアントラセンの性質に着目。アントラセン同士の分子配列を阻害して結晶化を防ぎ、室温で液体状態が安定となる分子構造を設計した。この分子は、複数のアントラセンをエステル結合を介して糖アルコール(D-ソルビトールなど)に導入した構造で、入手しやすい原料から簡単に合成できる。
液体状態の接着剤をガラス基板に塗布して挟み込み、400~420nmの光で硬化させたところ、せん断接着強度はこれまでのアゾベンゼン系の約5倍で、ガラス基板の破断強度に達した。接着状態は100℃でも安定に保たれたが、150℃以上に加熱すると架橋部分の熱解離によって液化して容易に脱着できた。
液体状態に戻っても、再び光照射することで再接着も可能。光による硬化と、熱による液化のプロセスを、少なくとも5回以上繰り返すことができると確認している。
今後は、仮止め剤や解体時に基材を傷めず剥離可能な接着剤、再接着可能な再作業性に優れた接着剤などの高機能接着剤への展開、さらに解体性の塗膜としての応用も視野に入れて研究開発を進めていく計画だ。