東京工業大学は2018年2月14日、世界最小電力で動作するBluetooth Low Energy(BLE)無線機の開発に成功したと発表した。無線機の大部分をデジタル化することにより、消費電力を大幅に低減した。
BLEは、従来のBluetoothに比べて1桁以上の低消費電力化が可能であり、IoT向けの無線技術として利用が広がっている。一層の利用拡大のためには、IoT端末の耐用年数中に電池交換が不要となる10年以上の駆動を実現することも重要となり、BLE無線機にはさらなる低消費電力化が求められている。
今回同大学の研究グループは、2つの研究成果を生み出した。1つは新型デジタル時間変換器(DTC)により、ジッター(信号波形の時間的揺らぎ)が小さくかつ広帯域な特性を実現した低消費電力デジタル位相同期ループ(PLL)。もう1つが、このデジタルPLL回路を用いて実現した低消費電力で動作するBLE無線機だ。
従来の低消費電力デジタルPLL回路はBLE無線機に必要な低ジッタかつ広帯域な特性を実現できないことが課題だったが、今回開発したデジタルPLL回路は、新型DTCによりこれらを実現し、BLE無線機での利用が可能となった。これにより、従来のBLE無線機の受信に必要な回路規模を半分にし、またアナログデジタル変換器(ADC)を不要とすることに成功。さらに大幅な分解能の向上も可能にした。
この新しいデジタルPLL回路を利用したBLE無線機は、キャリア再生やアナログデジタル変換をPLL回路に担わせることで大幅な消費電力の削減が可能となった。最小配線半ピッチ65nmのシリコンCMOSプロセスで試作したBLE無線機は、送信時に2.9mW、受信時に2.3mWの消費電力で動作。これは、従来報告があったBLE無線機の半分以下の消費電力だ。
また、デジタルPLL回路単独の評価回路も作成し、同じく最小配線半ピッチ65nmのシリコンCMOSプロセスで試作。消費電力とジッター特性において、低消費電力無線向けPLL回路として世界最高性能を達成したという。ジッターを消費電力で正規化したPLL FoM特性において-246dBという良好な性能を達成した。従来、同様のFoM性能を持つものは8.2mWの消費電力を要したのに対し、8分の1以下の0.98mWでの動作を実現した。また低消費電力モードでは0.65mWでの動作も可能だ。
今回開発されたBLE無線機および極低消費電力のデジタルPLLは、広範なIoT機器へ組み込むことができ、IoTの普及を加速させるものとして期待できる。また、特許出願中の新型DTCや、それを用いたデジタルPLLは、要素的回路であるため、幅広い回路用途に利用可能だ。