産業技術総合研究所(産総研)は2018年3月6日、東京大学と共同で、柔軟性と高い熱伝導性とを併せ持ち、かつ壊れにくいエラストマー複合材料(コンポジット)を開発したと発表した。フレキシブルデバイス用の基板などへの応用が期待されるという。
今回開発されたエラストマーコンポジットは、水中プラズマ技術により界面活性剤を使わずに表面改質して高分子への分散性などを高めた窒化ホウ素フィラーと、環状分子と直鎖高分子から構成される超分子の一種であるポリロタキサンのゴム複合材料だ。
開発する上で、まずは窒化ホウ素粒子を塩化ナトリウム水溶液中に分散させてから、パルス電圧をかけて水中プラズマを発生させ、表面改質を行った。その後、表面改質した窒化ホウ素粒子をろ過・分離・乾燥させて、トルエン溶媒中でポリロタキサン・触媒・架橋剤とともにミキサーで混錬・架橋し、エラストマーコンポジットを作製した。窒化ホウ素濃度50wt%のエラストマーコンポジットは、均質で、内部では無機フィラーが一様に分散しており、繰り返し変形を加えても柔軟性や形状は維持された。
開発品の性能確認のため、プラズマ表面改質した窒化ホウ素粒子と表面改質していない窒化ホウ素粒子を用い、窒化ホウ素粒子の濃度が20wt%と50wt%のエラストマーコンポジットと、フィラーを使わないエラストマーを作製して応力伸長比曲線や靭性(タフ度)を測定した。その結果、表面改質することにより靭性(タフ度)が最大で5倍程度向上し、壊れにくい材料となった。
熱伝導率は、窒化ホウ素粒子の濃度に合わせて増加したが、50wt%以上の高濃度では表面改質した粒子を用いたコンポジットの熱伝導率は、表面改質していない場合より10%程度高く、表面改質が有効であることが分かった。
近年、フレキシブルなディスプレーを備えた腕時計型端末や電子ペーパー、動力を備えて人の動きを補助する装着型ロボットなどのフレキシブルデバイスが、医療/製造/エネルギーなどの幅広い分野で注目を集めている。こうしたフレキシブルデバイスの基板には、柔軟で放熱性が高い材料が必要になる。これまでポリイミド系高分子とグラスファイバーやグラファイトなどの高熱伝導性フィラーのコンポジットが用いられてきたが、柔軟性が低く、体への装着性などに課題があった。
今回開発された技術の詳細は、2018年3月5日(米国東部時間)に国際誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
今後は、無機フィラーのナノ粒子化や水中プラズマ処理プロセスの最適化などにより、さらなる高熱伝導化を図る。さらに、レーザー分光法や軟X線発光吸収分光法を用いた反応場のオペランド計測によって、今回開発したエラストマーコンポジットの特異な機械的特性の発現メカニズムの解明を進めていく。企業との連携も進めて、実用化を目指す考えも示している。