燃料電池を高性能化する新触媒技術を開発――SOFC搭載FCVの実用化も視野に

新触媒コーティングの機能イメージ

ジョージア工科大学の研究チームが、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の空気極において、酸素分子の還元を促進する新触媒コーティング技術を考案した。コーティングされた電極中では、酸化物イオンが従来よりも高速で移動できるので、燃料電池の発電速度を飛躍的に高められるという。研究成果は、2018年3月1日の『Joule』誌にオンライン公開されている。

SOFCは、燃料電池の中で発電効率が高く、大きな注目を集めている技術だ。ただしSOFCは、酸素の還元イオン化に時間がかかるうえ、電解質であるイオン導電性セラミックス中での酸化物イオンの移動速度が遅いという欠点があり、動力源としての機動性や応答性にやや劣る。また作動温度が750℃以上と高いため、自動車用に単独で用いることは難しいというのが定説だ。量産FCVであるトヨタ「MIRAI」やホンダ「クラリティ Fuel Cell」は固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)を使用しており、日産自動車がバイオエタノールを改質した水素を燃料とするSOFC型FCVプロトタイプ「e-Bio Fuel-Cell」を発表したときには、大きな注目を集めた。

今回ジョージア工科大学の研究チームは、触媒の働きで酸素を強力に誘導して、空気極における還元プロセス速度を増大するナノ技術の開発に取り組んだ。研究チームは、La-Sr-Co-Fe系酸化物(LSCF)空気極の上に、BaCoやPrCoの酸化物からなるナノ粒子層とPr-Ba-Ca-Co系酸化物(PBCC)の薄膜層から成る、厚さ30nmのコーティングを施すことで、酸化物イオンの流れを促進し、発電プロセスの速度向上を試みた。

その結果、空気極ではナノ粒子が酸素分子を強力に吸着、酸素分子は流れ込んでくる電子とただちに結び付いて容易に還元し、酸化物イオンとなった。そして酸化物イオンは、ナノ粒子構造と薄膜層中に存在する多数の酸素空孔を媒介として高速に移動できるため、陽極で生成された水素イオンと迅速に結合し、高い速度で電流を発生させる。

研究チームを指導する料科学工学科のMeilin Liu教授は「この技術は、燃料を高速度で電気に変換できるとともに、SOFCの特徴でもあるメタンや天然ガスのような安価な水素源の使用を可能にする」と語る。また、「使用するプラセオジム(Pr)はレアメタル故に高価だが、極少量なのでコストには影響しない」と、そのメリットを説明する。

さらに、既存のSOFCは作動条件が高温なため、高価な保護カバーや冷却技術が必要だが、この触媒は燃料電池の電気抵抗を低減するため作動温度を下げることができ、全体的なコスト削減や自動車への利用の可能性も期待できる。さらに、燃料電池以外にもスーパーキャパシタや太陽発電パネルへの応用も可能で、持続可能なエネルギー技術全体に貢献する技術だと言えるだろう。

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