患者に合わせて成長する心臓弁――シミュレーションを使って再生医療による心臓弁を最適化設計する

コンピュータデザインでカスタマイズされた、再生可能な心臓弁

チューリッヒ大学の研究チームが、再生医療による心臓弁を、コンピューターシミュレーションを使って最適設計する技術を開発した。各患者に合わせて移植組織がどのように成長、機能発揮するのかを予測し、複雑な心臓弁の構造設計を最適化するものだ。研究成果は、2018年5月9日の『Science Translational Medicine』誌に公開されている。

iPS細胞を用いて生体組織や器官を作る再生医療が、大きな期待を集めている。従来の人工インプラントと異なり、患者体内で拒絶反応を起こさず、他の組織と共に自然に成長するためだ。

世界的にみても疾病や死亡の主因の1つになっている心臓弁膜症も、再生医療による治療が切実に求められている分野だ。現在使用されている人工心臓弁は、特に先天性心臓欠陥をもつ子どもにとって大きな負担となっている。人工インプラントでサイズが変わることのない人工心臓弁は、子どもの体の成長に伴い、手術によって度々交換する必要がある。繰り返される複雑な外科手術の大きなリスクは、患者と家族に著しいストレスを与えている。

研究チームを指導する再生医学研究所Simon P. Hoerstrup教授は「再生医療技術が日常的に活用されるようになるには、多くの超えなければならない課題がある。特に、心臓弁のように複雑なインプラントに対しては、移植組織の成長能力や再生能力が患者ごとに異なることだ。」と説明する。また移植後の心臓弁は、体内で安定するまでの間に収縮する傾向があるなど、移植組織の成長再生プロセスには予見すべき様々な現象がある。

今回研究チームは、コンピューターシミュレーションを用い、培養移植された心臓弁がどのように成長・再生し機能発揮するかを計算、成長再生プロセスにおける心臓弁の構造変化を予測した。そして、実際にヒツジを使い、コンピューターシミュレーションを適用した移植肺動脈弁が、1年以上も機能を維持することを確認した。

この研究チームの成果は、再生医学において次々と展開される新技術を、実際の臨床治療技術に発展させる有力な支援ツールとなり、再生医療の日常的な展開に向けての大きなマイルストーンといえるだろう。現在チューリッヒ大学の小児病院では、細胞組織工学によって製造された血管を用いて、先天的な心臓欠陥のある子どもの治療を準備しているという。

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