- 2019-1-27
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- Applied Economics, Liu Haoming, PM2.5, シンガポール国立大学(NUS), 大気汚染
大気汚染が我々の健康に及ぼす影響については広く知られているが、経済に与える影響も少なくないことが明らかになった。シンガポール国立大学(NUS)の研究チームは2019年1月3日、中国のいくつかの工場ではアメリカ環境基準の約7倍のPM2.5が発生しており、工場の労働者の生産性低下につながっているという研究結果を『Applied Economics』に発表した。
NUSの研究チームは、1年かけて河北省、河南省、江蘇省、四川省の12の企業の責任者に聞き取り調査をしてから、河南省と江蘇省にある2つの繊維工場で、大気汚染と労働生産性に関わるデータを集めた。これらの繊維工場は、勤務がシフト制で賃金が出来高制であったため、労働生産性を記録するのに都合が良かった。研究チームは、個々の労働者が日々生産した量と大気汚染度を比較した。
大気汚染の指標としてはPM2.5の量を利用した。2つの工場では、日々その値は大きく変動していたが、おおむね高かった。ある場所では平均85μg/m3を示した。これは、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)が提唱する環境基準の約7倍に相当する数値だ。日本の環境省は、1日平均70μg/m3を超えると健康被害が生じる可能性が高くなるとして、国民に対して注意を促している。
日々のPM2.5の変動はすぐには生産性に影響を与えなかったが、30日まで調査期間を延ばしたところ、明らかな生産性の低下が見られた。PM2.5が10μg/m3増加し、それが25日間にわたって続くと、1日の生産性が1%低下することが分かった。「影響はわずかだが、とても意味がある」と研究チームは語る。
過去に行われた米カリフォルニア州での調査では、PM2.5が10μg/m3増加するとその日のうちに生産性が6%低下したという結果が得られている。NUSのLiu Haoming准教授は「中国の労働者はカリフォルニア州よりはるかに悪い状況下で、汚染度の低い日の生産性に匹敵する生産性を汚染度の高い日にも保ちながら、日々働いている可能性がある」と指摘する。
研究チームは大気汚染の悪化が労働生産性の低下を引き起こす理由については明らかにしていないが、「高濃度の汚染は目に見えるため、心理学的要素もありうる。大気汚染がひどいところで長時間働くと、気持ちや仕事に対する態度にも影響を与える可能性がある」としている。
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