空間を飛び越える「空間断熱移送」を、質量を持つ量子力学的粒子で初めて実現 京都大学

京都大学は2020年1月20日、高橋義朗教授ら研究グループが量子力学的な原理に基づいて粒子が空間を飛び越える「空間断熱移送」に成功したと発表した。

量子力学では物質は波の性質も併せ持つ。波の基本的な性質は、互いに重なり合って強めたり打ち消しあったりする干渉効果である。たった3つの状態を考えるときにも干渉効果が現れる。条件を制御することで、物質の波が常に1つの状態で打ち消しあい、残る2状態間でだけ往復するように仕向けることができる。

この3つの状態がそれぞれ別の場所にある容器A、B、Cだとし、この順番に真っすぐつながっていたとする。容器内の粒子は量子力学のトンネル効果によって隣の容器へ飛び移ることができる。3つの容器の間の遷移確率をうまくコントロールし、干渉によって容器Bで物質の波が打ち消しあうようすると、まるで粒子が突然「ワープ」したかのようにAからCへ飛び移る。このような現象は「空間断熱移送」と呼ばれ、古典的な光の波では観測されていたが、量子力学的な粒子では実現されていなかった。

空間断熱移送を実現させるためには、極小の粒子を入れる3つの極小の容器の準備と、容器間で粒子が飛び移るトンネル効果の確率を精密に制御する必要がある。今回の研究では、光の波長サイズの規則正しい格子構造を持つ光格子のうち、「リープ格子」と呼ばれる格子構造の3つの容器をレーザー光によって作製した。このリープ格子は、最小単位に3つの格子点を含み、そこに原子を捕獲することによって要求される配置でトンネル効果を起こすことができる。さらにレーザー光の強度によってトンネル確率を制御できる空間断熱移送の実験装置を開発した。

同実験装置を用い、相互作用しないイッテルビウム原子の特定同位体を使った実験を実施。位置を運動量に転写するバンドマッピング法を応用した計測により、数万個のイッテルビウム原子が同時に断熱移送される様子を捉えることに成功した。また、移送効率が95%という高い値を得ることもできた。

空間断熱移送の過程で示される離れた物質間に同時に存在する状態は「重ね合わせ」の状態であり、この状態を保持する操作はコヒーレント操作という。コヒーレント操作は量子計算や量子シミュレーションで重要な役割を果たし、今回の研究では新たなコヒーレント操作を開発したという意義がある。また、同じ重ね合わせ状態は、磁力によって鉄を引きつける性質である強磁性を示す「平坦バンド」という状態に相当し、いまだ解明されていない強磁性のメカニズムの解明につながる可能性があるという。

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