イオン摂動による硫化物材料の物性変化を解明――リチウムイオン電池を超える高容量蓄電池の開発へ

京都大学は2020年1月6日、産業技術総合研究所と共同で、硫化物材料の「イオン摂動」による物性変化の内容を解明したと発表した。

同大学によると、今後蓄電池はますます高容量化が求められる。そのため、既存のリチウムイオン電池を上回る性能を持つ新型電池の正極材料の候補として、硫化物材料が注目されている。

しかし硫化物材料である硫化鉄リチウム(Li8FeS5)などは、充放電反応に伴う生成物が大気中で不安定な非晶質や低結晶性であるために、従来の汎用の大気曝露下の測定では生成物質や電気反応機構を解明するための十分な情報が得られないという課題があった。

今回の研究では、出発組成としてのLi8FeS5を、メカニカルミリングなどを用いて合成。電気化学的手法によって、リチウムを抜く(充電)処理と、反対にリチウムを入れる(放電)処理を実施し、その際の電子/磁気物性を精査した。測定は大気非曝露で行い、第一原理計算による理論計算も併用した。

その結果、出発組成Li8FeS5からリチウムを抜く(Li2FeS5)と、電子伝導性の高い非磁性アモルファス相となり、リチウムを挿入する(Li10FeS5)と、スピン偏極による強い磁性を持つ絶縁体的な低結晶相となることが分かった。つまり、リチウムを引き抜くと非磁性を示し、リチウムを入れると磁化が増大することが明らかになった。

磁化は温度に依存して変化し、低温でピークを示した。ピーク時の温度や磁化の磁場依存性から考えて、Li10FeS5の磁性は強磁性ナノ粒子に起因する超常磁性であると考えられるという。

また、第一原理計算の結果、異常低原子価である1価の鉄イオンのスピンが、これらの磁性を担っている可能性があることも示された。

今回の研究によって判明したイオン摂動による物性変化は、イオン種の電気的な挿入と脱離を制御することで、電気的、磁気的特性が異なる2つの相を可逆的にスイッチングできることを示している。今後移動可能なイオン数を増やすことで、新奇の相や物性を開拓できることが期待され、高容量蓄電池の開発につながる可能性があるという。

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