MIT、原子を使って分子を絶対零度近くまで冷却する方法を発見――分子ベースの量子コンピューティングを可能にする技術

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Image: José-Luis Olivares, MIT

米マサチューセッツ工科大学(MIT)は、2020年4月8日、ナトリウムリチウム分子を200ナノケルビンまで冷却する方法を発見したと発表した。200ナノケルビンは、絶対零度をほんのわずかに上回る程度の極低温だ。研究成果は、学術雑誌『Nature』に2020年4月8日付で発表されている。

実験では「衝突冷却」と呼ばれる技術を応用した。ナトリウムリチウム分子をさらに冷たい温度のナトリウム原子雲の中に入れたところ、極低温のナトリウム原子が分子をさらに冷却する機能を果たした。

衝突冷却とは、冷やす対象より冷たい原子を使用して対象の原子を冷却する方法だ。この手法は標準的な技術で、これまで10年以上にわたって、分子にも応用して分子の過冷却が試みられてきた。しかし、分子が原子と衝突すると、分子が加熱される、または、破壊されるようなエネルギー交換が生じ、効率的な冷却を促す衝突は起きなかったという。

しかし、研究者らは、過去の実験から、ナトリウムリチウム分子とナトリウム原子を同じ方向にスピンさせると自己破壊を回避でき、その代わりにナトリウム原子がナトリウムリチウム分子のエネルギーを熱として奪う効率的な衝突が起こることを発見した。

実験では、磁場と20以上ものレーザー光を出す複雑なシステムを使用して、分子のスピンと回転運動を操った。特定の周波数と偏光のレーザー光を照射して分子の量子状態を制御し、マイクロ波場を慎重に調整して、原子が分子と同じ方向にスピンするようにしたという。

そして、トラップ用レーザーの出力を下げて光トラップを緩めていき、ナトリウム原子の温度を下げていった結果、原子雲に取り囲まれた分子がさらに冷却されて、分子は2マイクロケルビンから220ナノケルビンまで冷却された。冷却衝突に注目すると、効率の良い衝突が効率の悪い衝突を上回ったということだ。

研究チームは、分子が極低温状態で最大1秒間、留まることができたことを観察。1秒と聞くと日常的には非常に短い時間だが、量子計算や新材料の探索においては十分な時間だという。

今回、ナトリウムリチウム分子を冷却して達成した温度を、さらに5倍ほど低温まで冷却することができれば、いわゆる量子縮退領域に到達し、そこでは個々の分子が区別できなくなり集団の振る舞いが量子力学により制御される。研究チームはより低温に冷やすためのアイデアがいくつかあるとしているが、実現するまでには設定の最適化や新しいレーザーを組み込む作業で数カ月かかるだろう。

今回実施した衝突冷却は、ナトリウムリチウム分子の冷却ではうまくいったが、他の分子でもうまくいくかどうかはまだ不明であり、多くの議論を呼ぶとみられる。研究者らは、おそらく、どのようにすればこの方法で他の分子を冷却できるのか、すぐに予測できるようになるだろうと語っている。

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