- 2020-6-6
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- Andrew Kent, CoGd(コバルトガドリニウム)層, IBM, MFM(磁気力顕微鏡), PtW(プラチナタングステン)合金, Scientific Reports, スキルミオン, データストレージ, ニューヨーク大学, レーストラックメモリ, 学術
ニューヨーク大学の研究チームは、次世代のデータストレージ技術として注目されている「レーストラックメモリ」の性能向上につながる研究結果を発表した。「スキルミオン」と呼ばれる微小な磁気渦をデータの担い手とすることで、省電力、高速、小型の大容量データストレージの開発が可能になる。研究結果は、2020年4月20日付けの『Scientific Reports』に掲載されている。
スマートフォンから、ノートパソコン、クラウドベースのストレージに至るまで、デバイスに対する大容量化のニーズは今後も増えると予想される。多くの研究機関で、デバイスを小型化しつつ、容量とスピードを増加させたメモリ技術の開発を進めている。
レーストラックメモリは、2008年にIBMによって提案された、高速かつ低消費電力の大容量メモリ技術。HDDがモーターを使って内部のディスクを回転させながら、磁気ヘッドで書き込まれたデータを読み出すのに対して、レーストラックメモリは、電流パルスを加えることでデータが書き込まれた強磁性磁区がシフトするので、機械的動作を必要としない。
研究チームは、強磁性磁区をスキルミオンに置き換えた「スキルミオンレーストラックメモリ」に焦点を当てた。スキルミオンは、スピンが渦状に配向した構造を持ち、全体で1つの微小な粒子として振る舞う。電気的パルスでデータの作成や消去が可能で、低エネルギーで高速に駆動できるため、より高密度、高速、高効率のデータストレージの開発を可能にする。
ただし、スキルミオンは非常に特別な材料環境の中だけでしか安定しないことが分かっている。そのため、スキルミオンをホストできる理想的な材料と、それらを作成できる環境を同定することが、実用化への最優先事項だと、研究チームは語る。
実験から、ナノスケール厚の強磁性体CoGd(コバルトガドリニウム)層をPtW(プラチナタングステン)合金でキャッピングすることで、スキルミオンの形成を促進するように、磁気相互作用を精密に制御できると実証した。また、構造の対称性、強磁性体層の厚みも関係することも示した。さらに、MFM(磁気力顕微鏡)を使って、100nm以下の大きさのスキルミオンのような磁気テクスチャを室温、ゼロ磁場で確認した。
「家庭用電化製品に搭載するにはさらなる開発が必要だが、この先駆的なタイプのメモリは、まもなく大容量データストレージの次の波になるかもしれない」とシニアオーサーのAndrew Kent教授は語っている。