電子デバイスの大規模印刷を可能にするインク配合手法を開発――コーヒーのしみがヒント

英ケンブリッジ大学は、2020年8月12日、アルコール混合物を用いたインク製法を開発したと発表した。インク液滴の乾燥時に起きていた現象を防ぎ、これまでにない規模での安価な電子デバイス印刷を可能にするとしている。研究成果は、『Science Advances』に2020年8月12日付で発表されている。

今回の研究のヒントは、テーブル上でコーヒーをこぼすという日常生活での出来事に由来するという。コーヒーをこぼすと「コーヒーリング効果」と呼ばれる現象が観察される。コーヒーリング効果とは、端の液体がより速く蒸発して固体粒子が堆積し、その結果、特徴的な濃い色のリングを形成する現象だ。

インクもコーヒーのように振る舞うことが知られており、特にシリコンウエハーやプラスチックなど硬い表面にプリントすると、インク粒子がエッジ周辺に蓄積し、不規則な形状やでこぼこした表面を作り出してしまうので、プリントされた電子デバイスの動作に悪影響を及ぼしてしまうという。そのため、グラフェン、2次元材料、ナノ粒子を含む機能性インクを産業レベルで実用化する妨げになっていた。

研究者らは、さまざまな溶媒を組み合わせ、高速マイクロ写真撮影で粒子追跡を行い、流体力学も考察しながら、インク液滴の物理現象について研究を進めた。その結果、イソプロピルアルコールと2-ブタノールの混合物から成るアルコールを使用した際、インク粒子が液滴全体に均一に分布する傾向があり、均一な厚さと特性を持つ形状を生成することを発見した。

開発されたインクは、乾燥する際に表面で滑らかに変形し、粒子を均一に拡散するという。さらに、コーヒーリング効果対策としてインクに添加されていたポリマーや界面活性剤が不要となるため、グラフェンや2次元材料等の電子特性を添加物が阻害する問題も解消される。

最も注目すべき点は、この方法で作られたインクの性能再現性と拡張性の高さだ。シリコンウエハーやプラスチック基板上にほぼ同じデバイスを4500個もプリントできたという。従来、不規則な挙動を示したとしても数百のデバイスをプリントすること自体が成功とされていた常識からすると、これは大きな改善だ。

研究者らは、グラフェン以外にも、さまざまな材料を含む12種類以上のインク配合を最適化した。例えば、黒リンや窒化ホウ素などグラフェンと2次元的に似た構造や、異なる2次元材料のサンドイッチ構造であるヘテロ構造、そしてナノ構造を持つ材料でも配合を試したという。

コーヒーリング効果を回避するインク配合手法は、新しい電子デバイスをシリコンウエハーやプラスチックだけでなく、ウェアラブルデバイスにプリントするためにスケールアップすることもできるという。研究チームが最初の概念実証としてプリントしたセンサーと光検出器は、感度と一貫性の点で産業レベルで求められる条件を上回る有望な結果を出しており、この技術の産業レベルでの応用が期待される。

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