MIT、完全にフラットな魚眼レンズを開発

米マサチューセッツ工科大学(MIT)は、2020年9月18日、完全にフラットな魚眼レンズを開発したと発表した。研究成果は『Nano Letters』に2020年9月18日付で発表されている。

一般的に、パノラマのような景色を1枚の写真に収める際には魚眼レンズが使われるが、魚眼レンズは複数枚の曲面ガラスを使って作られているため、かさばるうえ製造コストがかかることが課題だ。研究者らは、完全に平らな広角レンズを設計し、そのレンズで鮮明な180度のパノラマ画像を撮影することが可能であることを実証した。この設計は「メタレンズ」の一種で、光を特定の方法で操作する微細なパターン構造を持つウエハー状の材料を利用したという。

新しく開発されたメタレンズは、片面にテルル化鉛の薄膜を蒸着したフッ化カルシウムで構成される透明な単体構造で、リソグラフィー技術で光学微細構造を薄膜上に刻み込む。それぞれの光学微細構造は「メタ原子」と名付けられ、ナノスケールサイズの長方形や骨のような形状で、光を特定の方向に屈折させる働きを持つ。

パノラマ画像の撮影には位相遅延現象が利用されており、従来の魚眼レンズでは、ガラスの曲率によって自然に位相遅れの分布が生じることで最終的にパノラマ画像を得る仕組みだ。メタレンズでは、位相遅延現象を生じさせるメタ原子のパターンを決定して、薄膜上に光学微細構造を作成している。

研究者らはメタレンズを搭載した撮像装置を用いて、中赤外領域でしま模様の写真を撮影。その結果、カメラの視野の端から180度近くにわたって、しま模様の画像が鮮明に撮影されていることを実証した。

また、アモルファスシリコンのナノポストをメタ原子として利用し、近赤外波長で動作するメタレンズも設計して、撮像装置のテストに使用されるシミュレーションを行った。白黒画像をつなぎ合わせたパリのパノラマ画像をインプットしてシミュレーションを実行し、メタレンズが生成する画像を確認した。その結果、メタレンズが視野全体をカバーすること、そしてレンズの中心でも端でも高解像度の画像を生成することを確認したという。

開発されたメタレンズは他の光の波長域にも応用できるようだ。可視光域で特定の波長範囲の光をより良く屈折させるためには、現在の構造よりも小さな光学微細構造を作成し、メタレンズの材質を変えるなどの工夫を施す必要はあるが、研究チームが設計した基本構造を変える必要はないという。

薄くフラットな魚眼レンズは、スマートフォンやノートパソコンに直接組み込まれてさまざまな用途に応用できることが期待されており、さらには、内視鏡などの医療用画像処理装置や、VRメガネ、ウエアラブル電子機器、その他のコンピュータービジョンデバイスにも応用できるかもしれないと見込まれている。

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