光コンピューティングに向けて、光集積回路を微細化する基盤技術の開発

ロチェスター大学の研究チームが、光集積回路の本格的な開発に向け、これまでで最も小さいフォトニックモジュレーター(電気光学変調器)を作製することに成功した。二酸化ケイ素SiO2層上に積層したニオブ酸リチウムLiNbO3(LN)の薄膜を活用したもので、光集積回路に入射する光を制御する光学ベースチップの基盤技術の1つとなり、データ通信やマイクロ波通信、量子光学など、幅広い応用の可能性を持つと期待される。研究成果が、2020年8月17日の『Nature Communications』誌に公開されている。

光集積回路は、コンピューターやデータ処理用途に電子の代わりに光を使うもので、電子を使う従来の集積回路に比較して、高い処理速度と広い帯域幅、高いエネルギー効率を持ち、将来型デバイス技術として大きな期待が寄せられている。だが、大規模な実用化に不可欠な回路の微細化が従来の集積回路ほどには進んでおらず、開発および応用展開の障害になっている。

同大電気コンピューター工学科のQiang Lin教授が指導する研究チームは、光集積回路デバイスの微細化の研究を推進する過程で、ニオブ酸リチウムLN薄膜を用いてミクロンレベルのフォトニックモジュレーターを開発することにチャレンジした。LNは優れた電子光学および非線形光学特性を有することから、フォトニクスの研究開発において主力材料系になっているが、「現状のLNフォトニクスデバイスは、バルク結晶または薄膜で作製されており、大きな寸法を必要として微細化は難しい。そのため変調効率やエネルギー消費、回路集積度に制約を与えている。高精度で高品質のナノレベルのフォトニック構造を作成することが、大きな課題になっている」と、Lin教授は説明する。

そこで研究チームは、二酸化ケイ素SiO2層上に積層したLN薄膜を用いて、フォトニックナノキャビティを利用したフォトニック結晶ナノビーム共振器を作製した。これにより、モーダル体積0.58μm3とこれまでで最も小さく、高速かつ高効率で作動するフォトニックモジュレーターの作製に成功した。

このデバイスの変調効率は最大1.98GHzV-1であり、100%変調に相当する光スイッチとして動作させた場合、22×10-15Jのビットスイッチングエネルギーで11Gb/sのスイッチング特性を達成できることを明らかにした。「約1μサイズのナノキャビティは、常温において2から3個のフォトンを用いて、波長を変調させることが可能なことが判った」と、Lin教授は語る。「この開発は、データ通信やマイクロ波光通信、量子光学など幅広い分野で、大規模なLN光集積回路を実現するのに、重要な基盤を築く」と、研究チームは期待する。

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