メタマテリアルを使って磁場を遠隔的に制御する手法を開発――1世紀以上前からの定理を回避

負の透磁率を持つメタマテリアルにより、「アーンショーの定理」を回避し、人間の脳内などアクセスしにくい場所における磁場を遠隔的に制御することに成功した。

サセックス大学とバルセロナ自治大学の共同研究チームが、178年来の理論「アーンショーの定理(Earnshaw theorem)」を回避して、少し離れた場所の雑音磁場を遠隔的に打ち消す手法を考案した。負の透磁率を持つ人工物質メタマテリアルによって、雑音磁場に対抗する磁場を作り出して雑音を打ち消すもので、人間の脳内などアクセスしにくい領域における磁場を制御し、測定の際に雑音になる外部磁界の影響を取り除くことができるようになる。磁場スキャナーによる医療診断や量子コンピュータの高精度化など、幅広い分野に応用できると期待される。研究成果が、2020年10月23日に『Physical Review Letteres』誌に公開されている。

通常、物質の透磁率は正であり、物質に外部磁場が負荷されると、物質は同じ方向に磁化される。もし、透磁率が負で反対方向に磁化されれば、互いに反発して物質を空中に浮上させることなどができるが、そのようなことが現実に発生しないというのが、1842年に提案されたアーンショーの定理の平易な帰結の1つであると言われている。

一方で、近年電磁波の波長よりも微細な機械的構造を利用して、物質の電磁気的特性を人工的に制御した疑似物質メタマテリアルの研究が展開され、例えば、透磁率と誘電率の両方を同時に負の値に制御することで,負の屈折率を持つ物質を作り出すことも可能になっている。例えば、負の屈折率を利用することにより、光の回折限界を超えていくらでも細かな構造を観察できる「完全レンズ」が提案されて脚光を浴びるようになった。

今回研究チームは、メタマテリアルにより負の透磁率を実現してアーンショーの定理を回避し、アクセスしにくい場所における磁場を遠隔的に制御することにチャレンジした。研究チームが考案したメタマテリアルデバイスは、円周状に配列した直線状電線群から構成されるが、このデバイスは負の透磁率を有し、雑音磁場に反応して対抗する磁場を発生し、結果として邪魔な磁場を打ち消せることを、計算および実験的に実証することに成功した。

研究成果の応用に可能性ある分野として、量子コンピュータなどにおける外部磁場からのノイズ抑制、MRIなど磁場スキャナーにおける医療診断の高精度化、磁場を通して脳の様々な部分を活性化する経頭蓋磁気刺激法の高度化、外部磁場により体内移動するナノロボットや磁性ナノ粒子の高精度制御およびドラッグデリバリーへの応用など、幅広い応用が期待されている。医師が磁場スキャナーを用いて、脳において何が起きているか、もっと正確に見ることができれば、アルツハイマーやパーキンソン病といった神経学的障害をもつ患者に対して、より正確な診断を提供することも可能になるだろう。

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