産業技術総合研究所(産総研)は2017年11月22日、熱電材料の性能を示す「ゼーベック係数」を簡便にかつ精度良く測定できる手法を開発したと発表した。
熱電材料は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる特殊な合金や半導体で、廃熱を有効利用できる材料として期待されている。優れた熱電材料の開発のためには、熱-電気変換の性能指標であるゼーベック係数(温度差と電圧の比例係数)の正確な測定が必要となる。しかし従来の絶対測定法では、高度で複雑な装置での長時間の測定で、熱伝導率や放射率などの熱物性値を正確に測定する必要があり、また得られるゼーベック係数の精度は10%程度であった。
産総研ではこれまで、電圧や抵抗など電気量の精密測定技術を開発してきた。今回その技術を活用し、熱物性値を測定せずにゼーベック係数を求める新たな測定手法を開発した。ゼーベック係数の測定では通常、測定試料の両端に温度差を与え、直流電流を流して、電子が運ぶ熱で生じる試料の温度変化を測定する。その際、試料の長さや断面積に加え、試料の熱伝導率、放射率などの熱物性値が必要となり、複雑な装置と長時間の測定を要していた。今回、直流電流だけでなく交流電流を用いることで、熱物性値の測定を不要にした。
今回開発した手法では、温度差を与えた試料に直流電流を流して温度変化を測定した後、スイッチなどで切り替えて交流電流を流し、温度変化に加えて電圧を測定する。交流電流の場合、電子の移動方向により熱の吸収と放出が繰り返されるため、電子が熱を運ぶことによる温度変化は生じない。ここで、交流と直流を流した際の試料の温度変化の差と試料両端の電圧の測定値を、熱解析より新たに導き出した式に代入することで、試料のゼーベック係数が得られる。
今回の手法により、従来1温度あたり1日程度かかっていた測定時間を約1時間に短縮できた。また、従来の絶対測定法では測定精度は10%程度だったが、今回の手法では約2%に向上していることが確認された。
産総研では今後、より広い温度範囲でゼーベック係数を計測できるよう測定装置の改良を進めるとともに、自動計測できるソフトウェアなど、より使いやすい計測システムを開発する。また、従来の絶対測定法では困難であった薄膜材料の測定にも取り組む。