昔のマルスをイメージして、パタパタめくってピンを挿す「路線検索ガジェット」を作った

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なんでもスマホのタッチパネルで完結してしまう今の時代。逆に物理的な装置をガチャガチャと操作したい欲が高まっているのは、自分だけではないはずだ!

たまに想像してしまう。スマホが存在しない世界線、単機能の装置がそれぞれ独自の進化を果たしていたとしたら?

たとえば電車の路線検索。昔は紙の時刻表を見ていたけれど、あれが順当に進化すると「路線検索できる専用ガジェット」が生まれていたのではないか。そういう未来も見てみたかった。よし、自分で作ってみるか。

思い出したのは昔の「マルス」

路線検索ガジェットのことを考えていて思い出したのは、JRの列車予約システム「マルス」(「みどりの窓口」で駅員が使っている装置)だ。今では当たり前のようにタッチパネルだけれど、昔はもっとゴチャっとした装置だった。

これは京都鉄道博物館に展示されている「マルスM型」という機種。大量のボタンに圧倒されてしまう。

中でも1番目を引くのは、通称「パタパタ」と呼ばれたこの部分である。本のようにページをめくって目的の駅名を探し出し、丸い穴に棒を挿すことで駅が指定できる。中央の部分(本で言うとノド)にスイッチがあって、今どのページが開かれているかを認識している。

これが上下に2組あり、出発駅と到着駅をそれぞれ指定していた。タッチパネルに比べると、ものすごく物理的である。駅名指定だけに特化している「専用装置」なところが最高だし、一度見たら忘れられない機能美を備えたインターフェースだった。

構想している「路線検索できる専用ガジェット」も、あえてパタパタでやると面白いんじゃないだろうか。この仕組みで路線検索できるなんて最高じゃないか。それでいこう。

これが「パタパタ路線検索ガジェット」だ!

仕上がりのイメージがわきづらいと思うので、いきなりだが出来上がったものをご覧いただこう。

こちらがガジェットの全景。さすがにパタパタを複数作るのは難しかったので、出発駅と到着駅を1つの装置で順番に入力できるようにした。実物よりもデフォルメしており、ほぼB6ノートサイズの大きさだ。

こちらが駅名を入力するための棒。3Dプリンターで制作した。

棒の先には磁石を埋め込んでいる。

一方でパタパタの穴の中には、「リードスイッチ」という、磁石を近づけるとONになるスイッチを配置。これによって、穴に棒が挿入されたことを検知できるのだ。

「千葉」という穴に挿すとそれを検知し、画面にちゃんと「千葉」と表示される。これだけでも楽しいし、作ってよかったと思える。タッチパネルのほうが作るのも簡単だし、おそらく安上がりだが、こういう特殊なインターフェースからしか得られないUX(ユーザー体験)も間違いなくある。

そして肝心のパタパタギミック! 百均で買ったバインダーをベースに作ったので、見た目は完全にノートである。ページの部分は、アクリル板をカットして制作した。

本物のマルスと同様に、ページをめくると勝手にスイッチが押される仕組みを採用。軽い力で押せるように、軽トルクのマイクロスイッチを埋め込んである。

ひと通り仕組みが分かってもらえたところで、実際にどうやって使うのかを紹介したい。

まずは目的の駅名があるページを探す。

出発駅は秋葉原! ということで、「秋葉原」の穴に棒を挿す。すると画面に出発駅として表示される。

次に到着駅を指定するため、棒を「門司」のほうへ移動。画面に到着駅が表示されれば入力完了だ。

すると画面が切り替わり、自動で「駅すぱあと」の路線検索が動いて検索結果を表示する。結果はもちろん正確なので、意外と実用に耐えるガジェットと言えよう。普段はスマホのフリックで行う駅名入力が、「ページをめくって棒を挿す」というアナログな動作に置き換わった瞬間である。

ちなみになぜ「駅すぱあと」なのかというと、交通データ関係のウェブAPIが一般公開されているからだ。今回の路線検索(検索結果のURL生成)は無料で使えるので、ありがたく使わせていただいた。

検索結果画面が表示されたあとは、最終ページの右下に用意した「ブラウザの表示を上下させるカーソルキー相当の穴」と「最初の駅名選択ページへ戻るための穴」を使って画面を動かせる。ものすごく面倒くさい仕様だが、これがないと行き詰まってしまうので……。

ここまでがガジェットの完成形の紹介である。制作がわりと大変だったので、どうやって作ったのかという点にも少し触れておきたい。

パタパタの基板を作る

こちらがパタパタの基板まわりのパーツ。今回の仕様では、パタパタ1ページあたり穴が20個、つまりリードスイッチが20個必要になる。それが左右にあるので、計40個! 構成がほとんどキーボードである。

最初は手作業で回路を組むつもりだったのだが、回路図を書いて早々に「あ、これは無理だ」と断念。デバッグでも痛い目を見そうなので、プリント基板を設計して業者に発注することにした。

こちらが回路図だ。

基板のパターンはこのように作成した。左右のページで共通して使える設計にして、製造コストを抑えている。

ところでスイッチが40個あるということは、この信号を受けるマイコン側のGPIOも40本必要ということだ。マイコンは「Raspberry Pi(ラズパイ)」を使う予定だが、さすがに40本だとピンが足りない。そこでピン数を減らすため、今回は「8to3プライオリティエンコーダ」というICを使用した。

詳細は省略するが、そのICを片側3個、計6個使うことで、信号線の数を40本から22本にまで削減できた。「それでも22本か、多いな……」と思うけれど、ラズパイで駆動できる本数に収まっているので、まあよしとしよう。キーボードと同じようにキーマトリクス方式にすると、もっと削減できるように感じた。

設計した基板は、中国・深圳にあるプリント基板製造サービス「Elecrow」へ発注した。そして中国から海を渡ってやってきた基板を受け取り、パーツを実装。ご覧の通り、リードスイッチがずらっと並んだ基板が出来上がった。

ちなみに回路が一部間違っていたので、手動でジャンパを飛ばしたり、電源回路を追加したりしているのはご愛嬌だ……。

これを2枚実装し、左右間で通信できるようにワイヤーで接続すれば完成だ。ところどころに、力業で解決した跡が見え隠れしている。

パタパタの外装を作る

パタパタの外装のベースとなるのは、百均で買ってきたバインダーである。

バインダーに穴を空けて、ネジとスペーサーを通す。

その上に、先ほど作った基板を乗せてナットで固定する。文房具とプリント基板の組み合わせって、なんだか萌える見た目をしている。

そして基板を囲むように、3Dプリンターで作ったスペーサーとなるパーツを置く。

パタパタのページ部分は、アクリル板をカットして作った。

レーザーカッターで切り出して、計4枚のパーツを作成する。

それを外装に固定する。狙った通りにビシッとはまってくれると、なんとも言えず気持ちがいい。

駅名を決める地道な作業

あとは「駅名を決める」という、工作らしからぬ作業もある。今回のパタパタは最大120個(片面20個×6ページ)まで駅を入力できるので、全国の駅の中から120駅程度を厳選する必要があった。

実は私は鉄道が好きで、JRの全路線を乗り終えた「JR全線完乗者」だ。ほとんどの主要駅に降り立ったことがあるので、駅名を見ていると「この駅はこうだったなあ」と回想が始まってしまい、なかなか進まない……。しかも120駅というのは相当少ない数であり、4000以上あるJR駅の中からバランス良く選りすぐるのは大変な作業となった。

結局、駅を決めるだけで半日を費やし、「本当にこの駅で良いのか」と自問自答を繰り返しながらも、最終的に116駅を選定した。苦渋の選択をして外した駅もあるので、どうか「あの駅が入っていない」と怒らないでほしい。

選んだ駅名を印刷し、それをパタパタに貼り付けていく。これが1~2ページ目だ。

次が3~4ページ目となる。

5~6ページ目。駅名を付けると、いっきにそれっぽくなった。変なところで時間がかかってしまったが、入力インターフェースの部分は、これにて完成だ。

マイコンのソフトを作る

最後に残ったのはソフトウェアの部分だ。先ほど作ったパタパタのインターフェース部をラズパイに接続し、「どの穴に棒が入ったか」という判定プログラムをC言語で作成する。

そのソフトから、「何ページ目の、この位置の穴に棒が入りました」という信号を送信し、ブラウザ上で動いているJavaScriptのプログラムで受信する。受信した信号の内容によって、ブラウザに駅名を出したり、路線検索の画面に遷移させたりしているのだ。

ラズパイのGPIOとブラウザ表示の連携に関しては、説明すると記事を1つ書けるだけの分量があるので、今回は省略する。また何かの機会に述べたい。

そんなわけで、作業量がやけに多かった制作もすべて終了。無事に「パタパタ路線検索ガジェット」が誕生したのであった。

もし世界にスマホがなくて、路線検索専用ガジェットがあったなら

たぶん机の上に装置を据え置いて、厳かな気持ちで路線検索をするに違いない。そういう妄想をしてみる。

そう、こんな感じだ。

「上野から徳島に行きたいなあ。どうやって行けばいいんだろう。よし、路線検索してみるか!」

「まずは上野にピンを挿して、っと」

画面に上野が表示される。

「えーと、徳島は何ページ目にあったかな」

そうつぶやきながら、徳島の穴を探すのだ。場所を覚えていないと、わりと時間のかかる作業である。なお、本物のマルスM型だと見たところ最大2560駅まで指定できそうだ。素早く使うには熟練の技が必要だったに違いない。

「あった。よし、徳島に棒を挿したぞ」

「おお、出た。なるほど、羽田から飛行機か!」

無事に結果が表示された。

「やっぱり一家に1台、パタパタ路線検索ガジェットだな!」

一件落着である。こんな世の中も、少し見てみたかった。

役に立つかと言われれば、特に役に立たない。でもそんな面倒くさい装置を、ガチャガチャといじるのも楽しいものだ。なんでもスマホで済んでしまう世の中、逆にこういう体験を大事にして、できれば自分でもどんどん新たな体験を生み出していきたい。

fabcrossより転載)

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昔のマルスをイメージして、パタパタめくってピンを挿す「路線検索ガジェット」を作った(掲載元: fabcross)


ライタープロフィール

斎藤 公輔(NEKOPLA)
散歩が趣味の組込みエンジニア。主に「日常生活で目にするもの」をモチーフにしたガジェット作品を制作し、各種メディアやSNSで発表している。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。Twitter


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