マグネシウム蓄電池に適した酸化物系正極の新たな材料設計指針を構築――高エネルギー密度の次世代蓄電池の開発に寄与 東北大学ら

東北大学は2021年1月19日、同大学金属材料研究所と名古屋工業大学、東京都立大学の研究グループが、マグネシウム蓄電池に適した酸化物系正極の新たな材料設計指針を見出したと発表した。

次世代の中/大型蓄電池の候補として、負極にマグネシウムを用いるマグネシウム蓄電池が有力視されている。マグネシウムは、リチウムと比較して地殻埋蔵量が格段に多く、リチウムイオン電池の負極材料であるグラファイトの約6倍の容量を有しており、安価で大容量の蓄電池としての活用が期待されている。しかし、高いサイクル特性を示す正極材料がマグネシウム基準で1V級の硫化物系材料などに限られており、エネルギー密度の向上が見込めないことが課題となっていた。

同研究グループは今回、従来のスピネル型構造の八面体サイトにカチオン(陽イオン)欠損を有する欠陥スピネル型構造に着目し、スピネル型構造を安定化する亜鉛(Zn)や4価でも安定するマンガン(Mn)を用いた、Zn-Mn系欠陥スピネル型酸化物のZnMnO3を利用した。この結果、2~3V級の高電位かつ約100mAh/gの高容量と高サイクル特性との両立に成功した。

また、遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、欠陥スピネル型構造がZnMnO3の安定構造であること、マグネシウムイオンがエネルギー的に優先してカチオン欠損サイトに挿入されることが明らかになった。欠陥スピネル型構造のZnMnO3のナノ粒子を合成して構造を解析したところ、計算上予測された構造とおおむね一致することが確認されている。

150℃に昇温したイオン液体を用いて電気化学測定を行ったところ、マグネシウムイオンが優先的にカチオン欠損サイトに挿入される放電範囲では、従来の密な岩塩相を生じる反応ではなく、構造変化が抑えられた放電反応(マグネシウムイオンの挿入)が起こることが示唆された。このような充放電容量の範囲内となる約100mAh/gでZnMnO3の充放電試験を行ったところ、100日以上安定的に100サイクル超の充放電を行えることが確認された。

充放電時のエネルギー密度(マグネシウム金属負極の重量と理想的な電位を考慮した値)は、見積もりで200〜300Wh/kgとなっている。従来型のリチウムイオン電池の理論エネルギー密度は370Wh/kg程度であり、これに迫る値となった。

今後は、高エネルギー密度のマグネシウム蓄電池の実用化に向けて研究開発が加速することが期待される。一方で、現状では作動温度が高いため、室温での実用化に向けてはさらなる材料設計が求められる。

また、今回の蓄電池に適した酸化物系正極材料の一般的な設計指針の構築を受けて、派生した材料開発の活発化が見込まれる。

関連リンク

プレスリリース

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る