- 2023-4-10
- 技術ニュース, 電気・電子系
- ナノ・ライフ創新研究機構, 共振固有振動, 固有振動, 早稲田大学, 研究, 高速結晶アクチュエータ
早稲田大学は2023年3月29日、結晶に光を当てることで固有振動が起きて高速屈曲が生じることを発見したと発表した。さらに、この固有振動と同じ周波数の光を与えることで、共振により屈曲が大きく増幅することを発見した。発見された共振固有振動を用いれば、汎用性の高い高速結晶アクチュエータやソフトロボットの実現も期待できる。研究成果は同月13日、Nature Communications誌オンライン版に掲載された。
同大学ナノ・ライフ創新研究機構や日本学術振興会、東京工業大学物質理工学院などの研究グループは2020年、光熱効果によって厚い結晶が25Hzの高速で屈曲することを発見。その後、別の結晶を用いて光熱効果による屈曲の機構をシミュレーションにより明らかにした。しかし、この光熱効果による屈曲は0.2–0.5度と小さく、大きな動きを創出することが課題だった。
今回、研究グループは熱膨張の大きい有機結晶に注目して、光熱効果による大きな屈曲の創出を試みた。ところが、研究中に100ミリ秒で1.2度の光熱効果による大きな屈曲と同時に、390Hzの高速で0.1度の微小な固有振動が起きていることを発見。さらに、この固有振動と同じ390Hzのパルス光を照射すると、共振により固有振動が3.4度に増幅された。
この仕組みを解明するため研究グループは、光熱効果による熱が結晶内を伝導してできた温度勾配により結晶が変形し、同時に生じた熱応力が結晶の振動を起こすという仮説を立て、結晶の屈曲をシミュレーション。その結果、共振を伴わない屈曲と、共振により増幅された屈曲の両方を再現できた。
さらに、結晶の形状を変えると200-700Hzのさまざまな共振固有振動が観察され、長く薄い結晶では「大きい屈曲」が、短く厚い結晶では「素早い屈曲」が創出できることも分かった。この共振固有振動について屈曲速度とエネルギー変換効率を、光異性化、光熱効果、非共振固有振動による屈曲と比較した結果、最も速い屈曲速度(0.2-0.7ms-1)で、最も高いエネルギー変換効率(~0.1%)が得られることも明らかになった。
研究グループによると、固有振動の共振を利用すれば、あらゆる結晶を高速で大きく屈曲させることが可能なうえ、屈曲はシミュレーションが可能なため、結晶の種類やサイズ、光の照射条件などを変えれば望みの動きを設計できる。今後、さらに研究を進め、高速結晶アクチュエータやソフトロボットへの応用を目指すとしている。