アルカリ中での水電解で高耐久性を示すアニオン交換膜を開発――純水供給のみによる低コスト水電解システム 東工大とKISTEC

東京工業大学は2021年3月24日、同大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所とKISTEC(神奈川県立産業技術総合研究所)の研究グループが、アルカリ中で分解しないアニオン交換膜を開発したと発表した。高性能、高耐久性、低コストの純水型水電解システムを実現する。

これまでの水の電気分解(水電解)は、アルカリ水溶液を用いる水電解が主流だったが、天気に左右される太陽電池や風力発電の出力変動に対応できなかった。この問題は、薄い高分子膜を用いれば解決できるが、燃料電池と異なり、水電解装置のセパレータや集電体にはカーボン材料を使用できない。

出力変動が大きい自然エネルギーからの水素製造では、膜型水電解が主流になりつつあるが、H+イオンを伝導する膜では酸性環境になり、カーボンの代わりに大量の白金が必要となる。しかし、貴金属が必要ないOHイオンを伝導するアニオン交換膜は、アルカリ性環境になり、アニオン交換膜が分解してしまうという。

高分子膜を電解質としたアルカリ水電解の概略

そこで研究グループは、OHイオンを伝導するアニオン交換膜が高分子骨格中に存在するエーテル部位から分解することから、骨格がベンゼン環などの芳香族結合のみで構成される全芳香族高分子型アニオン交換膜を開発。この膜は、分子量が20万超と高く、溶媒に溶解することから、容易に製膜できる。

研究グループは、水電解セルの電解質膜と触媒層アイオノマーの両方に開発したアニオン交換膜(PFOTFPh-Cx)を用い、膜電極接合体(MEA-Cx)を作製した。

合成したアニオン交換膜(PFOTFPh-Cx)と作製した膜電極接合体(MEA-Cx)

この膜電極接合体についてアルカリ(1 M KOH)水溶液を用いた80℃での水電解性能(電流電圧曲線)を測定したところ、いずれの膜電極接合体でも1.0A/cm2の高い電流値で約1.8Vの電圧値(エネルギー変換効率80~83%)が得られ、電気から水素への変換効率が高かったという。さらに、温度80℃、運転時間100時間を超える水電解試験でも、電圧変化がほとんど観察されず、この膜電極接合体が高温/アルカリ環境での水電解で高い耐久性を持つことが示された。

水電解システムの簡便化を目指し、アルカリ水溶液の代わりに純水を使った水電解試験も実施したところ、純水による水電解にも成功。純水を供給した場合でも、1.0A/cm2の高い電流値で69~76%の高い水電解効率があったという。PFOTFPh-C10膜を用いたMEA-C10は、温度80℃、運転時間100時間を超える水電解試験でも安定であり、高い耐久性を示した。

今回の研究成果は、純水とアニオン交換膜を用いた固体アルカリ水電解システムで、初めて高い水電解性能と耐久性を同時に実現している。これは、水素製造全体の低コスト化、高性能化、耐久性の向上につながる。

今回開発したアニオン交換膜とニッケル等の非貴金属触媒を組み合わせれば、さらに低コスト化できる。今後、この水電解システムの実用化も視野に入れ、実際の出力変動条件での試験や、さらなる高耐久化、高効率化を進めるという。

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