3量子ビットの制御および量子もつれ状態の生成に成功――大規模量子コンピューターの実現に寄与 理化学研究所

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理化学研究所は2021年6月8日、シリコン量子ドットデバイス中の電子スピンを用いることで、3量子ビットの制御および量子もつれ状態の生成に成功したと発表した。

シリコン量子ドット中の電子スピンを用いたシリコンスピン量子コンピューターは、既存の集積回路技術と相性が良いことや、比較的高温で動作できることから、大規模量子コンピューターとしての実用化が期待されている。

量子コンピューターの実現に向けては、量子もつれと呼ばれる複数量子ビット間の相関の制御が重要となる。シリコン量子ドット中の電子スピンを用いる量子ビットでは、2量子ビット間の量子もつれが既に実証されているものの、量子誤り訂正などの量子アルゴリズムの実装に求められる3量子ビット以上の量子もつれの生成や検証は困難となっていた。

同研究所の研究チームは今回、シリコンスピン量子コンピューターで一般的に用いられる歪みシリコン/シリコンゲルマニウムの量子井戸基板上に微細加工を施し、量子ドット構造を作製した。冒頭の画像が同研究で用いたシリコン量子ドット試料の電子顕微鏡写真で、3つのゲート電極(P1、P2、P3)の直下に3つの量子ドットを形成している。赤、緑、青の丸は量子ドット中の電子を示す。

スピンのゼーマンエネルギーに共鳴した実効的な交流磁場を加え、スピン量子ビットの1スピン操作である電子スピン共鳴を発生させた。以下の画像がそれぞれの電子スピンのラビ振動の観測結果で、理想的な正弦波に近い振動を示していることが分かる。スピン操作の精度を測定したところ、平均99.5%の精度で操作できていることが確認された。

丸点は測定結果を示し、実線は正弦関数によるフィッティングを示す。観測された振動は、スピンが高周波の印加時間に対して基底状態(下向きスピン状態)と励起状態(上向きスピン状態)の間を周期的に遷移することを示している。

また、スピン間の交換結合の電気的制御により、隣接2スピン間のもつれ操作を実現した。ゲート電圧により、スピン間の交換結合(J)を制御できる。特に、ゲート電圧を高速でパルス制御し、Jを数10nsといった短い時間で作用させることにより、代表的な2量子ビット操作の一つである制御位相操作を実装できる。

量子ビット2を下向きスピンと上向きスピンの重ね合わせ状態にした上で、量子ビット3のスピン共鳴スペクトルの分裂を測定することにより、量子ビット2と3の間の結合Jを測定できる(下図、量子ドット1と2でも測定可)。障壁ゲートB3の電圧が0Vに近いときは、量子ドット2つはほぼ結合しないためJが0に近い値となる。B3に正電圧を加えて結合を強めると、共鳴ピークが徐々に2つに分裂し、間隔が大きくなる。この試料においては、Jを0.3MHzから30MHz程度にまで制御できる。

スピン交換結合の電気制御

最後に、1スピン操作と制御位相操作を組み合わせ、3量子ビットもつれ状態を生成した(下図)。また、量子状態トモグラフィを用いて量子状態の密度行列(ρexpt)を測定している。

(a) 3スピンGHZ状態生成および測定の量子ゲートシーケンス
(b) 量子状態トモグラフィの測定結果
(c) 理想的な3スピンGHZ状態の密度行列

理想的な密度行列(c)と生成した3量子ビットもつれ状態(b)とを比較したところ、(b)の状態忠実度が88%に達することが確認された。また、生成した状態が、2量子ビット以下のもつれ状態やW状態に分解できない真のGHZ(Greenberger-Horne-Zeilinger)型の量子もつれであることも明らかになった。

今回の研究結果を応用することで、シリコンスピン量子ビット系特有の課題となっている磁気的雑音や電気的雑音を考慮した量子アルゴリズムの最適化や、その検証実験が可能になるとみられる。また、より大きな量子ビット列を使用することで、大規模量子コンピューターの実現に向けた研究開発が加速することが期待される。

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