- 2021-10-4
- 化学・素材系, 技術ニュース, 海外ニュース
- Francesca Kerton, アトランティックサーモン, アミノ酸, アミン, エポキシド, ニューファンドランドメモリアル大学, プラスチック, ポリウレタン, 学術, 生分解性, 魚油
現代社会において、プラスチックは必要不可欠なものだ。プラスチックの一種であるポリウレタンは、衣類や電化製品、建築資材など、生活のほぼあらゆる場面で利用されている。一方でこのポリウレタンは、原料が再生不可能な資源である石油であることや、合成段階で毒性のある物質が必要であること、製品が自然界では分解しづらいといった問題を抱えている。
カナダのニューファンドランドメモリアル大学の研究チームは、通常は廃棄されるような魚の頭や骨、皮、内臓などを使い、ポリウレタンの代替となる、より安全で生分解性のある材料の開発に取り組んでいる。研究の責任者であるFrancesca Kerton博士は、「プラスチックの設計をする際は、二酸化炭素と水に分解するにせよ、リサイクルや再利用するにせよ、使用後の計画を立てることが重要です」と述べている。
この新しい素材には、ニューファンドランド州沿岸で養殖されているアトランティックサーモンの廃棄物を利用している。サーモンの加工後、残った部分の大半は廃棄され、一部は油の抽出に使われる。
研究チームは、この魚の油をポリウレタンのようなポリマーに変換する技術を開発した。まず魚の不飽和油に酸素を加え、エポキシ樹脂に似た分子であるエポキシドを形成する。次に、このエポキシドを二酸化炭素と反応させてから、アミンで分子を結合して新しい素材を合成した。
魚からできたプラスチックは、生臭くならないかというのは気になる点だ。実際ポリマーに変換する始めの過程では少し臭いがするが、段階を進むにつれ消えていくという。
この技術について、2020年に研究チームは論文にまとめているが、それからも改良を重ねている。化学反応の単純化に成功し、アミンの代わりにアミノ酸を利用する手法も検討している。また、生分解性に関する実験も行い、微生物により魚の油からできたプラスチックが容易に生分解される可能性が示唆された。
今後は、魚油からのプラスチックの改良をするとともに、実用化に向けてどのような用途に向いているのか検討する予定だ。